巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

聖書の真理を愛し、歌い、どこまでも探求の旅をつづけたい。

「黙示千年王国的政治カルト化」しつつある「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリアー(SJW)」とその疑似宗教的世界観についての考察(by ロッド・ドレアー、ジョナサン・ペイゴウ)

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出典

中東のテロリストたちは自分たちの隠れ家の周りを女性や子供たちで固めています。ですから仮にあなたが隠れ家を爆撃するなら、周囲にいるこういった罪なき人々も巻き添えになってしまいます。いわゆる「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリアー(SJW)*1」型の人たちもこれと全く同じ事をしています。彼らは仮説的に「弱者」のグループを見つけ出し、これらの人々を自分たちの守護盾として利用しています。そうしながらSJWは前進を続けているのです。でも一たび彼らに異議を唱えてごらんなさい。あなたは突如として「貧しく、社会的に弱い立場に置かれている人々を抑圧する人」ということになってしまいます。ジョーダン・ピーターソン

 

目次

 

 

ソフト全体主義社会の到来に備えて


著書『ベネディクト・オプション』の著者として有名なロッド・ドレアー(東方正教)と、ジョナサン・ペイゴウ(東方正教)が、「ソフト全体主義社会の到来に備えて」という主題で対談しています。

 

 


ドレアーは、今年9月末に新刊書『Live Not by Lies: A Manual for Christian Dissidents(嘘によって生きず。―クリスチャン反体制派人たちのための手引書)』を出版しており、対談は主としてこの新刊書の内容を軸になされています。盛りだくさんの濃い内容で多くの示唆を受けました。印象に残った部分を箇条書きにしてみます。

 

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Rod Dreher, Live Not by Lies: A Manual for Christian Dissidents, 2020. 


ー「全体主義国家」と「独裁制国家」は同一ではない。それゆえ、ある国が独裁制を採らずそれと同時に全体主義体制に移行してゆく可能性がある。


ー全体主義は、私たちが何を思考することが許容され得、何を語ることが許容され得るのかに関わるスペースを全体化(totalizing)してゆく。*2

 
ー全体主義は、自らの規定するイデオロギーに賛同しない人々を特定し、彼らを社会から排除してゆくメソッドを持つ体制。


ー全体主義は、社会のあらゆる側面を政治問題化(politicization)してゆく体制。


ー「ソーシャル・ジャスティス」運動は、実際には宗教運動*3であり、多くの点で20世紀のボルシェビズムと類似点を持っている。ロシア系米国人歴史家ユーリー・. スレスキン(Yuri Slezkine)は著書『The House of Government: A Saga of the Russian Revolution』(2017)の中で、こういった思想集団のことを「黙示千年王国的政治カルト(Apocalyptic millenarian political cult)」と呼んでいる。


ーボルシェビキにとっての善悪の線引きが「善としてのプロレタリア階級、悪としてのブルジョワジー階級」であったように、似非宗教としての「ソーシャル・ジャスティス」運動にとっての善悪の線引きは、「人種」や「アイデンティティー集団」間にある。*4

 
ー文化評論家のジェームス・ポロスは全体主義傾向を深める現代諸国家のことを「ピンク警察国家」と呼んでおり、彼はその中に住む人々が今後、安全および健康と引き換えに、(言論の自由、表現の自由、信教の自由などの)政治的自由を放棄していくだろうと予測している。*5

 
ーハンナ・アーレントは大著『全体主義の起源』の中で、ロシアおよびドイツにおいて知識人たちが、過去において排除されていた人々を再び中に入らせるべく、文明の支柱が破壊されるのをよしとした旨を語っている*6。現在、諸大学において、「多様性と包含(Diversity and Inclusion)」というバナーの下、活動家たちが理性による話し合いや議論を拒むという事態が多発しており、大学教育に本来なくてはならない思想の自由、言論の自由が侵害されている。*7

 

「周縁性」を巡る二つのアスペクト


それから、〔43:54~〕でジョナサン・ペイゴウが「周縁性」(marginality)に関し、独創的且つ非常に面白い考察をしていました。彼は周縁性という概念を肯定的・否定的な両方の意味で説明しています。それによるとシステムや社会体系を全体化させるに当たって二つの相があるそうです。(ファシスト政権や共産政権などが実例。)

 

一つの相は、システムを全体化させるべく、周縁部分を完全に切断しようとします。それに対し、もう一つの相は逆に、周縁部分を――それが標準化される形で――完全に包含しようとします。そしてジョナサンに言わせると両者は共に、「周縁が周縁のままであることを許さない」という点に危険性を持っています。房飾りのへりが風になびいています。絨毯の縁部分に飾り房がついています。でもシステムの全体主義化はそれらの周縁が縁にあることを許そうとはしないのです。

 

多くの人は、「街の中にドラゴンを放ち込んだら危険だ。ドラゴンは街全体を破壊してしまうから」と言います。しかしドラゴンの身になって物事を考えてみる人は意外に少ない、とジョナサンは言います。そう、ドラゴンにとっても、自分が街の中に放り込まれるという事態は非常に危険なことなのです。なぜなら、ドラゴンがドラゴンであり続けるには、彼は街の「外」にいなければならないからです。


社会の諸側面は、周縁性の中にパワーを持しているとジョナサンは指摘しています。これは肯定的な意味においても否定的な意味においてもそうでしょう。周縁部分にいる人々は体制に対し異議を唱えているその行為を通し、世界になんらかの影響を及ぼしています。しかし、(良い意味でも悪い意味でも)周縁にある部分が王様になろうとしたり、あるいは奇妙な種類の周縁的アイデンティティーを強硬に全体に適用させようとしたら一体どうなるでしょうか。

 

ロビン・フッド的瞬間――あべこべ「反逆者」

 

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〔50:52~〕ロッド・ドレアーの本の表紙は、ロシア革命時に使われていた構成主義のデザインになっているのですが、ここには一ひねりあるのです。副題に「クリスチャン反体制派人」とありますが、ドレアーは二重のアイロニーをここに含ませていると説明しています。つまり、今や私たちキリスト者が新世界秩序に対し抵抗する反体制派人になっているのです。

 

これをジョナサンは「ロビン・フッド的瞬間」と表現しています。全てがひっくり返り、あべこべになってしまうのをロビン・フッドは体験します。それまで合法的だったものが非合法的とみなされ、非合法的だったものが今や合法的とされているのです。こうして正常な人があたかも反逆者/反体制派のように見えるという現象が表出してきます。つまり、彼はただ自分がこれまで通り正常であり続けることにより、あべこべ「反逆者」になってしまうわけです


確かに、各コミュニオンあるいはもっと広範な社会においても、真実で高潔な方の多くが何らかの形で彼の属する体系内にあって、あべこべ「反逆者」とみなされ、周縁部分に追いやられているのを私たちは現在目撃していないでしょうか。そして彼がそういう状況に追い込まれているのは、まさしく彼が昔と同じように今も正常であるからなのです!なんという世界に今私たちは生きているのでしょう!


今後の生き方


対談の終盤部分で、ロッド・ドレアーは、ポーランドの共産政権迫害を生き延びたあるカトリック家庭を訪問した時のことを語っています。夫は投獄され、無神論政権により信仰自体が撲滅させられようとしている中、妻は日中働き、夜は二時間以上、毎晩、子供にカトリック信仰や歴史に関する本の読み聞かせをしてあげたそうです。また信者同士、できる限り機会を見つけては、どこかの家や野外に集まり、交わりを保つ努力をしていたそうです。


共産政権によるこうした迫害を生き延びてきた東欧圏の人々は、現在、西洋諸国やその他の諸国で起こっている現象が、20世紀ボルシェビキ体制と類似していると警鐘を鳴らしています。ドレアーの新書はこういった東欧圏キリスト者たちの懸念を真摯に受け止めつつ、私たちキリスト者が全体主義体制の中でどのように信仰を保ち生きてゆくことができるのかを問い模索した良書であるように思われます。

 

ー終わりー

 

補足1) 現代映画の中に見るシンボリズムとプロパガンダ(by Jonathan Pageau, The Symbolic World Youtube Channel)

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youtu.be

補足2)「シニカル理論―いかにして活動家学者たちは全てを人種、ジェンダー、アイデンティティ―問題に仕立て上げているのか。そしてそれがなぜ万人にとって有害であるのかについて。」

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Helen Pluckrose, James Lindsay, Cynical Theories: How Activist Scholarship Made Everything about Race, Gender, and Identity―and Why This Harms Everybody, 2020.

 

 

補足3)

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(1) Orthodox Survival Course: Introduction - Orthodox Worldview - YouTube

 

*1:SJW とは、Social Justice Warrior(ソーシャル・ジャスティス・ウォーリアー)のそれぞれの単語の頭文字をとった略語です。「社会正義のために戦う人」「正義の味方」などの意味であり、「マイノリティー」や「社会的弱者」に対する「差別」と戦う人を指します。

*2:

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*3:参:仲正昌樹著『〈宗教化〉する現代思想』光文社新書

*4: 

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www.youtube.com

*5:

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*6:参照:「世界観」が大衆を動員するーーハンナ・アーレント『全体主義の起源』(仲正昌樹氏)

*7:

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