巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

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聖書のワード・スタディーをする際に注意すべき事:その⑭ ギリシャ語新約聖書のセム語的背景に関する諸問題(by D・A・カーソン)

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使徒パウロ

 

D.A.Carson, Exegetical Fallacies, Chapter 1. Word-Study Fallacies, p.25-66(拙訳)

 

この表題の下には、おそらく一グループとして括ることのできる、数多くの困難な問題および、それに付随する数々の誤謬が潜んでいます。

 

私の脳裏にある、一連のこういった問題の種類は、次のようなレトリックな問いかけによって表面化してくることでしょう。

 

問い)どの程度、ギリシャ語新約聖書の語彙は、セム系諸言語(おそらくはギリシャ語NT語彙の多くの部分の根底にあると考えられます。特に福音書、それから使徒の働きの一部。)によって成形されているのでしょうか?

 

問い)どの程度、新約聖書のギリシャ語の単語の標準的意味領域は、特定の新約記者の持つセム語的背景の影響によって変更されているのでしょうか。

 

問い)どの程度、新約聖書のギリシャ語の単語の標準的意味領域は、新約記者のヘブライ語旧約聖書の読みによって変更されたのでしょうか。

 

問い)どの程度、新約聖書のギリシャ語の単語の標準的意味領域は、ヘブライ語旧約聖書のLXXに対する間接的影響(そしてそこからの新約への影響に関しても)によって、変更されたのでしょうか。

 

その他類似の問いが多く出され得るでしょうが、紙面の関係上、ここで止めます。またこれに関する本質的議論は、シルヴァの最近の論文の中で展開されています。*1

彼はこれらの論文の中で巧みに、エドウィン・ハッチの方法論に潜む弱点を指摘していますが*2、ハッチはただ単に、ヘブライ語相当語句に依拠することのみによって、ギリシャ語単語の意味を確立しようとしているのです。そして悲しいかな、この方法論は、最近ニゲール・ターナーによって出された著書の中で新たなる装いをもち登場してきています。*3

  

しかしそうだからといって、七十人訳(LXX)が新約記者のなんの影響も及ぼさなかったと言っているわけではありません。とんでもありません!事実、その影響たるや深遠です。しかし〔ハッチやターナーのように〕詳細検証もなく、ヘブライ語の単語の意味を、そのギリシャ語相当語句の内に読み込むという行為は、方法論的に無責任であると私は申し上げているのです。各事例はしかと吟味・議論されなければなりません。

 

例えば、私たちは「(新約聖書はもちろんのこと)七十人訳聖書がどのくらいの度合いで、ギリシャ語単語にヘブライ語の意味を授与しているのか」について、先行的に問う必要があります。

 

たしかに、単語というのは、、諸言語間の間では、部分的にしかオーバーラップしていませんが、それでも、「すべての諸言語は、同じ意味について語ることができ、さらに言うなら、すべての意味について語ることができます。」*4

 

ただその際、受容体としての諸言語は、全く異なる構造を用いなければならないかもしれず、もしくは、言い換え表現を用いなければならなかったり、ドナー言語の単語としっかり意味的オーバーラップをしている単語を注意深く選択しなければならなかったりするでしょう。

 

それゆえ、七十人訳のワードスタディーをするに当たり、私たちは、元々のヘブライ語の意図を吟味・検証し、且つ、七十人訳翻訳者たちの生きた時代に流通していたギリシャ語単語の意味領域について精通すべく、ヘレニズム期の文献やパピルス文書を研究する必要があるでしょう。

 

そして、こういった配慮は、私たちが旧約のヘブル語単語の意味領域から直接、新約のギリシャ語単語の意味領域に移動しようとする行為によって、妨げられてしまいます。

*1:Moise Silva, Biblical Words and Their Meaning, 25-27, それから、"Bilingualism and the Character of New Testament Greek," Bib 61 (1980): 198-219.

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*2:Edwin Hatch, Essays in Biblical Greek (Oxford: Clarendon, 1989).

*3:Nigel Turner, Christian Words (Edinburgh: T. and T. Clark, 1980). この論文に対するシルヴァの重要な批評に注目。Moises Silva in Trinity Journal 3 (1982): 103-9.

*4:Louw, Semantics of New Testament Greek, 45.

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