Abbot Tryphon, Manifesting the Kingdom, The Morning Offering, 19 Oct, 2021（拙訳）
福音は、この世に神の国の到来を告げるようキリスト者に要求します。――政治的イデオロギーによってではなく、個々のキリスト者の自己変容によって。
神の国の到来を告げ知らせよとのこの掟は、悪に面した際の中立性ではなく、「教会とは他者のために存在する時にのみ教会である」ということを認識することを意味しています。教会は、キリストの使信を――十字架につけられし御方から焦点をずらすような――、いかなるものへも改変させてはなりません。なぜなら教会の栄光はまさしく十字架にお架かりになったキリストの内に在るからです。「教会の戸の脇にいる乞食の内にキリストを見出すことができないのなら、あなたは聖餐の聖杯の中にこの御方を見出すことはできないだろう」と聖ヨアンネス・クリュソストモスは言っています。
正教が美の受肉であるのとは対照的に、政治的過激主義には詩と芸術が欠けています。政治的過激主義が美を破壊するのに対し、教会は美の本質を具現化します。教会はいかなる政治的イデオロギーにも自己を明け渡してはなりません。なぜなら教会は常に社会の中でもっとも弱き者、もっとも貧しき人々の側に立たなければならないからです。
教会が特定の政治的陣営AやBと手を結ぶ時、教会は至福直観を曇らせるような世俗諸イデオロギーに吸収されてしまう危険に陥ることでしょう。もしも教会が、世界の救い主であり贖い主であるキリスト・イエスを指し示すという聖書的召命に忠実に献身しているのなら、教会興隆ゆえに特定の政治形態――民主主義、社会主義、君主制・・――が必要とされることはありません。
神の国の顕現は、いかなる政治運動によっても、もしくは武力行使によっても、もたらされることはありません。それがもたらされるのは、私やあなたの心が変えられることによって、です。キリストがご自身の民の中に顕される時にのみ、御国は根を下ろし、平和と正義がこの世を治めることでしょう。
暗闇はどんな種類の政治運動によっても克服され得ず、キリストの光――この光の導入によってのみ暗闇は打ち破られるのです。
キリストにある愛をもって
トリフォン修道院長
