巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

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コイネー・ギリシャ語復元版発音法と音のリズムーー言語の呼吸と語感

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出典

 

言語の持つリズムや発音、旋律には詩的で音楽的な性質が宿っていると思います。前の記事で書きましたように、近年、音声学の発達により、ヘレニズム期ギリシャ語の発音がかなりの度合いで正確に復元されつつあり、それが、聖書ギリシャ語教育に、コミュニカティブで創造的な改革刷新をもたらしているようです。

 

それでは近年のこの発見が、ギリシャ語の発音やリズムにどのような影響を及ぼしているのか一つサンプルを採って、みなさんとご一緒に観ていきたいと思います。

 

下は、ヨハネの福音書1章1節のギリシャ語朗読であり、朗読者の方々はエラスムス式で発音しておられます。エラスムス式発音というのは、紀元前5世紀頃の古典期ギリシャ語発音に近い発音法です。

 

 

ἐν ἀρχῇ ἦν ὁ λόγος, 

エン アルケー エーン ホ ロゴス

καὶ ὁ λόγος ἦν πρὸς τὸν θεόν

カイ ホ ロゴス エーン プロス トン テオン 

καὶ θεὸς ἦν ὁ λόγος.

カイ テオス エーン ホ ロゴス

 

例えば、二行目のκαὶ ὁ λόγοςを朗読者の方はカイホロゴスと発音しておられます。それではみなさん、試しに、東京アクセントで「介護保険」〔カイゴホケン〕と声に出して発音してみてください。(大阪周辺のみなさん、関西風に発音しちゃいけませんよ。笑)

 

そして、カイゴホケンと言った後に続けて、VTRの朗読者のようにカイホロゴスと発音してみてください。この二つを続けさまに発音してみると、両者は基本的に同じアクセント(つまり日本語の東京アクセント)であることが分かると思います。古典期ギリシャ語と日本語は共に「高低アクセント」なので、その点、似通っているのかもしれません。

 

さて復元版発音法に話を移しますと、まずカイホロゴスのカイ(καὶ)は新約期にはすでにと発音されていたことが判明しています。またホ [ho] もオ [o] と簡潔に発音されていました。つまり、カイホがケォと縮まったわけです。そうすると、このフレーズの音やリズムのバランス上、ケォロゴスの「ロ」にぐっと強アクセントがかかるようになると思います。ケォゴスといった感じです。

 

そうした上で、最初のカイゴホケン、カイホロゴスの音やリズムと比べてみてください。東京アクセント型エラスムス式のカイゴホケン、カイホロゴスが「平野」だとしたら、ケォゴスは「山」といった感じがしませんか?

 

カイゴホケン/カイホロゴスは均等に_ _ _ _ _ _ 、それに対するケォゴスは ♪タという風に私には聞こえます。高低アクセントと強弱アクセントの違いです。

 

それでは「カイゴホケン」を関東風に発音するのと関西風に発音するのでは何か違いがあるのでしょうか。私の場合ですと、前者からは特にイメージは湧いてきませんが、後者の発音やアクセントを聞くと、途端に関西に住んでいる親戚のMおじさんが脳裏に現れ、「カイゴホケンか?おっさんは入っとらんさかい。ああ、なんぎやなあ。」とかそういう事を言っている生々しい濃厚なイメージが湧いてきます。

 

そう考えますと、発音やリズムやアクセントの違いは、意味の違いこそないにしても、少なくとも、言語の呼吸といいますか、なにかそこから醸し出される語感には多少の影響があるのではないかと思われます。

 

今後、コイネー復元版発音法が普及・定着していく中で、こういった方面でも多くの興味深い発見がなされていくのではないかと思います。楽しみです。