巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

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聖書のアレゴリカル(寓意的)な解釈?(by ジョン・ホワイトフォード神父)

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Fr. John Whiteford, Allegorical Interepretations of Scripture?, Orthodox Christianity, 2015(拙訳)


最近、当該サイトにおいて、私たちはジョン・A・ペック神父「聖書における四通りの意味(The Four Senses of Scripture)」という記事を掲載しました。本記事においては、ジョン・ホワイトフォード神父が、その中でも特に、――さまざまな西方キリスト教諸伝統に属している多くの現代クリスチャンによってしばし拒絶されていますが――新約聖書および教父的伝統において用いられているこのアレゴリカル(寓意的、寓喩的)解釈における意味について言及しています。

 

 


さて、「寓意的解釈は後代になって生じた解釈メソッドなので拒絶しなければならない」と主張している人々がいますが、これは見当違いです。といいますのも、新約聖書自体、寓意的な聖書解釈を取り込んでいますし、これは解釈における伝統的ユダヤ方法論にそのルーツを持っているからです。アレクサンドリアのフィロン(およそ紀元前25年~紀元後50年)は広範囲に渡り聖書の寓意的解釈を行なっています。キリストのたとえ話もアレゴリカルな次元を持っていますが、プロテスタント陣営の方々は一般にこの結論を拒む傾向があります。しかしながら、キリストご自身、福音書の中の一つのたとえ話――種まきの譬え(マルコ4:1-9)――に解釈を提供しておられ、その解釈は明らかに寓意的解釈です(マルコ4:10-20)。


聖パウロの書簡の中には、旧約聖書の寓意的解釈が含まれています。その中でも最も顕著なものがガラテヤ書4章21-31節でしょう。この聖句箇所において聖パウロはハガルとサラ、そして彼女たちそれぞれの息子であるイシュマエルとイサクのストーリーは「アレゴリー」であると明白に述べています。


21 律法の下にとどまっていたいと思う人たちよ。わたしに答えなさい。あなたがたは律法の言うところを聞かないのか。
22 そのしるすところによると、アブラハムにふたりの子があったが、ひとりは女奴隷から、ひとりは自由の女から生れた。
23 女奴隷の子は肉によって生れたのであり、自由の女の子は約束によって生れたのであった。
24 さて、この物語は比喩としてみられる。すなわち、この女たちは二つの契約をさす。そのひとりはシナイ山から出て、奴隷となる者を産む。ハガルがそれである。
25 ハガルといえば、アラビヤではシナイ山のことで、今のエルサレムに当る。なぜなら、それは子たちと共に、奴隷となっているからである。
26 しかし、上なるエルサレムは、自由の女であって、わたしたちの母をさす。
27 すなわち、こう書いてある、/「喜べ、不妊の女よ。声をあげて喜べ、産みの苦しみを知らない女よ。ひとり者となっている女は多くの子を産み、/その数は、夫ある女の子らよりも多い」。
28 兄弟たちよ。あなたがたは、イサクのように、約束の子である。
29 しかし、その当時、肉によって生れた者が、霊によって生れた者を迫害したように、今でも同様である。
30 しかし、聖書はなんと言っているか。「女奴隷とその子とを追い出せ。女奴隷の子は、自由の女の子と共に相続をしてはならない」とある。
31 だから、兄弟たちよ。わたしたちは女奴隷の子ではなく、自由の女の子なのである。 (ガラテヤ4:21-31)

 

もう一つ別の例も挙げましょう。1コリント人への手紙9章9-10節です。


9 すなわち、モーセの律法に、「穀物をこなしている牛に、くつこをかけてはならない」と書いてある。神は、牛のことを心にかけておられるのだろうか。
10 それとも、もっぱら、わたしたちのために言っておられるのか。もちろん、それはわたしたちのためにしるされたのである。すなわち、耕す者は望みをもって耕し、穀物をこなす者は、その分け前をもらう望みをもってこなすのである。


このように、新約聖書の中に見い出される、旧約聖書の予型論的(typological)解釈はその他にも多数あります。プロテスタント信者の多くは一般に寓意的なメソッドを拒絶したいと思っていますので、使徒たち自身がまさにそうした寓意的メソッドを用いている実例に出くわすと、大抵、次のような反応をします。「まあ、使徒たちに限って言えば、彼らは確かに霊感を受け寓意的メソッドを用いたが、その他の人々は誰も霊感を受けていない」と。しかしこういった言い分が、聖書にも、聖伝にも根拠を置いていない恣意的な意見であることは言うまでもありません。


聖書のアレゴリカルな意味は文字通りの意味を無効にするわけではありません。――それはテクストにおける意味のもう一つ別の次元なのです。伝統的に言って、聖書には四つの意味があります。


1.文字通り(Literal):これは、テクストにおける明白な意味のことを言及しています。明らかにテクストが文字通りに受け取るようには意図されていない場合もありますが、詩的テクストにおいてさえ、そこには明白な意味があります。


2.予型論的・寓意的:予型(type)というのは像(image)を刻み込む刻印です。一方、対型(antitype)というのは、予型によって象徴されているものです。私たちはこの「予型」という語を、ローマ人への手紙5章12-14節の中にはっきり見い出すことができます。

 

12 このようなわけで、ひとりの人によって、罪がこの世にはいり、また罪によって死がはいってきたように、こうして、すべての人が罪を犯したので、死が全人類にはいり込んだのである。
13 というのは、律法以前にも罪は世にあったが、律法がなければ、罪は罪として認められないのである。
14 しかし、アダムからモーセまでの間においても、アダムの違反と同じような罪を犯さなかった者も、死の支配を免れなかった。このアダムは、きたるべき者の型(type,τύπος )である。


さらに、「対型(antitype)」という語を私たちは1ペテロの手紙3章18-22節の中に見い出します。

 

18 キリストも一度罪のために死なれました。正しい方が悪い人々の身代わりとなったのです。それは、肉においては死に渡され、霊においては生かされて、私たちを神のみもとに導くためでした。

19 その霊において、キリストは捕われの霊たちのところに行ってみことばを宣べられたのです。
20 昔、ノアの時代に、箱舟が造られていた間、神が忍耐して待っておられたときに、従わなかった霊たちのことです。わずか八人の人々が、この箱舟の中で、水を通って救われたのです。
21 そのことは、今あなたがたを救うバプテスマをあらかじめ示した型(antitype, ἀντίτυπον)なのです。バプテスマは肉体の汚れを取り除くものではなく、正しい良心の神への誓いであり、イエス・キリストの復活によるものです。
22 キリストは天に上り、御使いたち、および、もろもろの権威と権力を従えて、神の右の座におられます。

 

種まきの譬えのように寓意として構成され得るストーリーもあります(『天路歴程』などはより広範な例ですね)。しかし、歴史的ナラティブもまたアレゴリカルに解釈され得ます。聖パウロがそうしたように。

 


3.倫理的・教訓的(Moral):倫理的意味は、個人的ないしは公同的次元においての、聖書の実際的適用です。この読み方の実例に触れてみたい方は、クリトの聖アンドレイの大カノン ( Canon of St. Andrew of Crete)*1を一読なさってみてください。これは四旬節(大斎;Great Lent)の時期に、東方正教会で祈り詠唱されるものです。

 


4.アナゴギカル(anagogical)/ 天的 / 終末論的:「アナゴグ」というのは「上昇する」という意味のギリシャ語に由来しています。ですからこれはいかなる仕方で、ある聖句が万物の成就を私たちに示しているのかをみるものです。興味深いことに、聖書のラビ的ユダヤ解釈もまた、聖書をこういった四重の意味を持つものとしてみています。そして両者には多くの類似性があります。


プロテスタントの方々は寓意的メソッドにこれまで否定的反応をしてきました。なぜなら、これは西方キリスト教世界において――特に中世期に――かなり行き過ぎた形をとって用いられていたからです。ですが、教会の偉大なる教父たちの聖書注解書を一度ご自分でお読みになってみてください。そうすれば、彼らがずっとバランスの取れた形で寓意メソッドを用いているということがお分かりいただけると思います。

 

使徒たち自身が、アレゴリカルにして予型論的に旧約聖書を解釈できていたのです。そうだとしたら、かりそめにも自らをクリスチャンだと主張している人は、教会教父たちが同様のメソッドを用いているということで反論すべきではないと思います。


ー終わりー

 

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