巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

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「永遠の哲学」(Perennial philosophy)、新プラトン主義【ニューエイジ、エキュメニズム運動の思想源流】

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東方正教会のデイビッド・P・ハリー氏がPerennial Philosophy vs Logos Spermatikos(永遠の哲学 vs ロゴス・スペルマティコス)という講義の中で、現代のニューエイジ、エキュメニカル運動等の思想系譜を概説しています。

 

の中でも述べておられるように彼自身、回心以前、実生活においてもアカデミック界においても東洋思想、錬金術、中世魔術、サイケデリック、スピリチュアル等の世界に深く入り込んでいた経験がありましたが、三位一体神の第二位格であるイエス・キリスト(ロゴス)との出会いを通し、キリスト教正教信仰に導かれたそうです。


講義はまずルネッサンス期における新プラトン主義(ネオプラトニズム)隆盛のいきさつから始まります。メディチ家の保護下、カトリック神学者マルシリオ・フィチーノ(1433-1499)によるプラトン全集、ヘルメス文書がイタリアで翻訳されました。

 

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マルシリオ・フィチーノ(1433-1499)

 

フィチーノは神話や魔術、プラトン哲学はキリスト教と一致するものと考えていました。ここからいわゆる西洋における「エソテリシズム潮流」が生み出されていくことになりました。宗教学・思想史などの学術的文脈においては、エソテリシズムはグノーシス主義、ヘルメス主義、魔術、占星術、錬金術、薔薇十字思想 (Rosicrucianism)、キリスト教神智学、18世紀フランスで盛行したイリュミニスム、メスメリズム (Mesmerism)、スウェーデンボルグ説、心霊主義、ブラヴァツキー夫人とその追従者たちに結び付けられる神智学の諸思潮などを含む、歴史的に関連した一連の宗教的諸潮流を示しています。 *1

 

彼の弟子であるピコ・デラ・ミランドラ(1463-1494)は、自然を支配する業としての魔術を信じ、また「キリスト教カバラ」を極めました。ハリー氏の解説によると、ミランドラは同性愛実践者でもあり、ホモセクシュアリティーとエソテリシズムとの相互関連という点を挙げておられました。


その後、フィチーノ、ミランドラの新プラトン主義秘教思想(「様々な宗教は同一の形而上学的真理という『一』に回帰する」)は、「永遠の哲学」(Perennial Philosophy)へと発展していきました。この語は16世紀に アゴスティノ・ステウコが著書 『De perenni philosophia libri X (1540)』の中で初めて使用しました。17世紀にはゴットフリート・ライプニッツがすべての宗教の基礎となる思想を示すのにこの言葉を用いました。ライプニッツの「モナド論」は有名です。ハリ―氏は、関連する流れとして、パンサイキズム(汎心論)やユニタリアニズム等を挙げています。1945年には「神秘主義的ユニバーサリズム」を信奉するオルダス・ハクスリーが、『永遠の哲学』 (The Perennial Philosophy) を出版しました。

 

ニューエイジ運動はこれらの一連の流れの中で発生してきました。ニューエイジは、境界なし・教義なしのスピリチュアリティー、モニズム及び単一/統一(unity)を説いています。ラディカル・フェミニズム、ガイア・女神信仰、ウィッカン(魔術信仰)等もまたニューエイジとオーバラップしています。*2

 

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ニューエイジ・スピリチュアリティー(出典)*伝統的キリスト教典礼におけるアド・オリエンテム(東向性)ではなく自己閉鎖的円形の形をとっていることにも注意。*3

 
興味深かったのが、エソテリシズム的次元における「諸伝統の究極的な一致」を説く思想家であったルネ・ゲノン(1886-1951)がなぜ最終的にイスラムに改宗したのかに関するハリー氏のコメントでした。イスラムの形而上学もまた新プラトン主義哲学からの影響を受けているからです。


東方キリスト教は2000年以上に渡り、絶対神的単純性(Absolute Divine Simplicity; ADS)を起源とするありとあらゆる思想哲学潮流(新プラトン主義、オリゲネス主義、イスラム主義、東洋諸宗教等)と相剋し闘ってきました。「多」か「一」かというあれかこれかのdialecticsではなく、東方キリスト教伝統においては、三位一体神のペルソナ性に根差したロゴスとロゴイ論(聖マクシモス等)によって、「多と一」の問題が解決され乗り越えられています。

 

また、ウーシアとエネルゲイアの区別をする東方キリスト教のテオシス*4は、その区別をしないヒンズー教やニューエイジ等の人間神化("アポテオシス")とは全く異なっています。神との合一によって人間は「個」を消失するのではなく、創造主ー被造物の区別がなくなるのでもなく、私たちキリスト者は、ペルソナ性に根差す三位一体神に創造された一人のかけがえのない人格(person)であり続けるのです。ロゴスは非人格的・抽象的な概念ではなく、ペルソナであり第二位格であられる受肉された神人イエス・キリストです。

ハリ―氏は講義の終盤において、「永遠の哲学」を支える認識論的基盤がなぜ欠陥を持っているのかについて説明しています。永遠の哲学は、さまざまな諸宗教の内に見い出される諸概念やシンボルを文化的・神学的文脈から切り離し、消費者主義的に流用しています。それとは対照的に、初期キリスト教伝統では「ロゴス・スペルマティコス」という説明がなされていました(殉教者ユスティノス等)。これは三位一体神の第二位格であるロゴスから出発する認識論であり、キリスト教特有の認識論です。この認識論により、その他の諸宗教や諸哲学の中に真理の種子(スペルマ)が部分的に存在することが肯定され、且つ、私たちは「道であり、真理であり、いのちである」イエス・キリストを通してでなければ「だれひとり父のみもとに来ることができない」という聖書の真理(ヨハネ14章6節)に堅く立つことができます。

 

非常に勉強になりました。感謝します。

 

ー終わりー

 

japanesebiblewoman.hatenadiary.com

 

*1:参照

*2: 

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*3: 

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*4:【補足】Essence(ウーシア、本質)とEnergy(エネルゲイア)の区別ーーウラジーミル・ロースキイ。大森正樹「神化」をめぐる問題 --ヘシュカズム論争の一断面-- 『中世思想研究』第58号。同著者『エネルゲイアと光の神学―グレゴリオス・パラマス研究』(2000年)京都大学博士論文要旨PDF

Dr. David Bradshaw on Palamism (Interview with Michael Lofton), 2019.  youtube

Florovsky on St Athanasius and the Doctrine of Creation .afkimel.wordpress.com