巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

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ハーバード大教授からキリスト教伝道者へーー元正統派ユダヤ教徒ロイ・H・シューマン師へのインタビュー記事

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人生の意味を探し求めて(出典

 

目次

 

ロイ・H・シューマン師について

 

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ロイ・H・シューマン(Roy H. Schoeman)

 

ニューヨーク郊外の保守的ユダヤ人家庭に生まれる。両親はナチス・ドイツを脱出したホロコースト生存者。(母の家族はフランスに逃れるも、フランスがナチスの手に落ちるや捕縛され、強制収容所に送られる。その中で彼女は奇跡的に脱出。渡米。)

 

米国内で最も保守的なラビとして知られるアーサー・ハーツバーグ(Arthur Hertzberg)及び地元のラビの宗教指導を受け育つ。高校時代には、ラビであるアーサー・グリーン(後に再建主義ラビ大学の学長)の薫陶を受け、高校卒業後は、イスラエルの地で、著名なハシディーム派のラビであるシュロモ・カールバッハ(Shlomo Carlebach)と共同生活しながら正統派ユダヤ教の教えを受ける。

 

その後、マサチューセッツ工科大学(M.I.T.)に進む。科学主義に触れ、次第に神信仰から遠ざかる。その後、ハーバード大学ビジネス・スクール(M.B.A.)を首席で卒業、29歳という若さで当大学の教授に抜擢、就任。

 

この頃、実存的虚無と人生の無意味に苦しみ、自殺願望が生じる。そんなある早朝、自然の中で省察している最中に突如として神秘体験をし、神の実在および永遠世界のリアリティーを知る。その後、不思議な導きの元、『大いなる沈黙へ』で有名なフランスのグランド・シャルトルーズ修道院でしばらく時を過ごす。

 

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グランド・シャルトルーズ修道院*

 

カトリック改宗を彼に全く迫らず、ただ一言、「あなたが今見ているものに対し正直であってください」と語った修道士の深遠なことばに大いに心を動かされる。その後、聖母マリアとの神秘的出会いをし、自分に啓示されている神が、キリスト教の神であることを知る。93年、イエス・キリストを救い主として信仰を持ちカトリックに改宗。

 

インタビュー記事

 

Interview with Roy H. Schoeman, Part One

 

IgnatiusInsight.com:あなたはユダヤ教から改宗されましたが、どういった点で、ユダヤ人の方々の多くはカトリック教会に対し誤解していると思いますか。また逆に、どういった点で、カトリック信者の多くはユダヤ教やユダヤ人の方々に対し誤解していると思いますか。

 

ロイ・H・シューマン:改宗前、私がカトリック教会に対し持っていた偏見はですね、、やはり、「カトリックというのは根本的神学上の誤謬であり、真正なるユダヤ教の、誤った形での非正統的分派である」といった概念でしたね。カトリック信者というのは、数多くの幼稚で迷信がかった慣習を持つ、偽メシヤの追従者だと思っていました。

 

また私はそれまでずっと、カトリック信仰というのは‟反セム主義的”であり、ユダヤ人やユダヤ教を侮辱するものであるという偏見を抱いていました。しかしそれはとんでもない勘違いでした。「神が人となり、その御方がユダヤ人になった」と宣言している宗教以上に、ユダヤ教に栄誉を帰している宗教が他にあるでしょうか?

 

また「地上に存在するあらゆる人々の間にあって、ユダヤ民族だけが受肉された神と血による関係性を持っている」と宣言している宗教以上に、ユダヤ人に栄誉を帰している宗教は他にあるでしょうか?

 

ユダヤ人に関し、カトリック信者(の一部)が抱いている最大の誤解は、どういうわけかユダヤ人にはイエスは必要ない、というおぞましく有害な観念ではないかと思います。

 

もちろん、ユダヤ人の側からはこういった見解は自然なものです。ーー彼らにとってイエスというのは所詮、偽りのメシヤであり、この偽メシヤによって間接的にユダヤ人に途方もない災難がふりかかったのですから。

 

しかし悲劇は、カトリック側にあります。というのも、‟他宗教間対話”および偽りのエキュメニズム運動への関心の高まりの中で、この見解(「ユダヤ人にはイエスによる救いは必要ない」;二契約神学)がカトリック教会を代表しているカトリック教徒の口からさえ出されているからです。

 

教会に参入した一介のユダヤ人として、私は自分たちユダヤ人がどれほど深くイエス及びサクラメントを必要としているか痛感しているからです。実際、この参入により、私たちユダヤ人の中に存在する、神に対する原型的な ‟ユダヤ的” 渇きが満たされるのです。

 

それがゆえに、私たちユダヤ人‟改宗者”はこれだけの熱意を持って、同胞ユダヤ人に語りかけているのだと思います。ーー教会に参入することにより、私たちはついにユダヤ人としての成就をそこに見ることができるのだと。

 

ユダヤ人と福音を共有することを回避するというのは、イエスに対する最大のひどい仕打ちだと思います。実にイエスはご自身の民が主を認めなかったことに涙されたのです(ルカ13章、マタイ23章)。

 

また、こういった回避行為は、ユダヤ人に対する最大の ‟反セム主義” であり、実質上ユダヤ人から、‟彼ら自身の” 神および数々の祝福・約束を奪うことに他ならないのではないでしょうか。元々こういった祝福や約束はユダヤ人に対してまずなされ、その後、残りの全人類に与えられたのですから。

 

IgnatiusInsight.com:ユダヤ教はAD1世紀以来、どのような変遷を遂げてきましたか。現在のユダヤ教はどんな状態ですか。

 

シューマン:過去2000年の間にユダヤ教神学において起こった三つの主要シフトについて本書で詳説しました。

 

一番目は、AD70年に起こったエルサレムにおける神殿崩壊によって必然的に起されたものです。旧約聖書に記述されてある犠牲制度全体は、動物の供え物に依拠しており、それらはエルサレムにある神殿の存在を必要としていました。

 

AD70年に神殿が崩壊したことで、そのような犠牲奉献がもはや可能ではなくなり、こうしてユダヤ人は、自らを清め、罪のための贖いをするための道が閉ざされてしまいました。この危機に対処すべく、一説によるとヤムニア近郊にてラビの指導者たちが会合を開き、動物犠牲の役割を、善行、祈り、断食、施し等で置き換え、ユダヤ教のサクラメント体系を再定義したとされています*1。こういったユダヤ教の改訂は、ーー元来の「神殿ユダヤ教」に対しーー「ラビ的ユダヤ教」として知られており、今日に至るまで存続しているユダヤ教の基盤をなしています。

 

ユダヤ教における二番目の主要シフトは、ある部分において、ユダヤ人のキリスト教改宗という脅威に対する応答の中で、そして別の部分においては、‟啓蒙主義”の結果生じたと考えられます。(啓蒙主義の影響を受けた結果、神中心の世界観がより物質主義的世界観に置き換わりました。)

 

そしてこれは、それ以前には常にユダヤ教の中軸にあった個人的メシヤへの待望を否定するものでした。今日でもユダヤ人の少数派は来るべきメシヤを信じていますが、本来ならこれこそユダヤ教が信奉してきたものなのです。

 

例えば、中世におけるユダヤ人ラビ権威の最高峰にあったマイモニデス(רבי משה בן מיימון)は、「ユダヤ人がユダヤ人共同体から絶たれ、来るべき世における相続を喪失する唯一の方法は、来るべきメシヤに対する信仰を持たないことである。」と教えていました。

 

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マイモ二デス(約1135-1204)

 

それから最後に、そしておそらく最も悲劇的なことに、ホロコーストの結果、そしてモダニズムの影響の結果、多くのユダヤ人がもはや、人間の事象の中で働いておられる至高善にして全知全能なる神を信じなくなっています。

 

ある著名なユダヤ人神学者が言っているように、贖い主としての伝統的神観は、「焼かれていく子ども達という現前の中で」破棄されなければならないとされています。

 

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ホロコースト生存者の回想

 

それゆえにかつて全ての人類に、至高善にして全知全能なる愛の神にかんする知識を紹介したユダヤ教は、ーー少なくともその、より現代的顕現の中でーー(一周して)元の状態に戻ってきています。その意味で、今日ごく少数派にすぎませんが、より正統派のユダヤ教 ‟諸教派” は、歴史的ユダヤ教信仰を保持する上でより良い貢献をしてきたのではないかと思います。

 

IgnatiusInsight.com: ホロコーストはユダヤ教神学にどのような影響を及ぼしたと思いますか。

 

シューマン:歴史的に、ユダヤ教は、①神は至高善にして全能なる方である。②神はご自身の選ばれた民としてユダヤ人に対する特別な愛を持っておられる。③もしも彼らが神に忠実ならば、神は地上での人生のさまざまな状況の中で彼らに報いてくださる、という三点を常に教えてきました。

 

しかしながら、ーー人がホロコーストの原因を、‟契約の目的に対するユダヤ人の堅実さの失敗” に帰さない限り(←この説明は、超正統派ユダヤ教徒の中でもごく一部の人々に対してしか受容可能ではありません。)ーー上に挙げた三つの命題の内一つは却下されなければならなくなります。

 

それゆえ、現代のユダヤ教神学者たちの間には、神の善、人間の諸事象に対する神のご関与、もしくはご自身の契約に対する神の忠実性を拒む傾向があります。本書の中で私は、今日もっとも著名なユダヤ教神学者たちの幾人かの著述の中からそれらの出典を付けています。現代ユダヤ教神学の中でこういった冒涜が栄誉の座を占めているということは嘆かわしいことではないかと思います。

 

IgnatiusInsight.com: ナチズムのイデオロギー的ルーツ*2は何だったのでしょうか。ナチズムおよびその過激な反セム主義は、ある批評家たちが主張しているように、キリスト教神学に起因しているのでしょうか。

 

シューマン:近年、どういうわけかナチズムはカトリック教会の母胎から発生したという意見が普及するようになってきていますが、これはひどい中傷だと思います。実際には、ナチズムが、『ローズマリーの赤子』にもなぞらえる、二人の悪魔的両親ーー「オカルト主義」と「無神論的優生学」の子孫であることを私は本書の中で詳述しています。

 

本書の中で私は、数十年にまたがる、この二つの潮流の跡を追いました。マーガレット・サンガーおよび彼女の組織によって代表される優生学、そして ‟ニューエイジ” として今日存在するオカルティズムの諸派は互いを肥沃化させつつ、ナチス運動の誕生、政策、諸実践の中で結実に至りました。

 

優生学は人類進化の自己決定』 1921年開催された第2回国際優生学会のロゴ。異なった領域の多様性を一つに統合する樹木として表現されている。*3

 

ヒトラーは彼自身の哲学および思想をこれら二つの源流から引き出しました。その事実は、彼自身の諸言明、ヒトラーの個人史の詳細、彼の依拠していた人々の中に明確に現れています。そしてこれら全ては本書の中で一時資料から実証されています。*4

 

IgnatiusInsight.com: 旧契約と新契約の間の関係はどのようなものでしょうか。2002年8月に出された「契約と宣教に関する省察("Reflections on Covenant and Mission")」という文書が論争を巻き起こしましたが、新旧約契約に関しこの中に表現されていたどの点が誤っていたのでしょうか?

 

シューマン:旧契約と新契約の間の関係を理解するには、ユダヤ教が《メシア以前のカトリシズム》であり、カトリック教会が《メシア以後のユダヤ教》である点を押さえることが重要だと思います。

 

両者は同一のものですが、それと同時に両者は、人として『神が受肉された』という世界史上における中心的出来事が起こった結果としてもたらされた神と人との間の関係性の変化によって分かたれています。そして両者間にみられるあらゆる相違点、あらゆる類似点は、この事実から生じてきています。*5

 

あなたのおっしゃった文書に関してですが、これは前述した二契約神学*6を反映した虚偽の平和神学(irenicism)より発生した不幸なる試みでした。

 

これは宗教間対話およびエキュメニカル対話に関する司教の委員会のメンバーたちによって作成された文書ですが、彼らはこの文書を委員会のディレクターの許可なく出版しました。その後、ディレクターが出版の事実に気づき、すぐに文書を撤回しました。

 

またこの文書は、米国カトリック司教協議会(United States Conference of Catholic Bishops)のウェブサイトに掲載されましたが、数日以内に削除され、責任者である司教が、「削除されたあの文書は、内部文書であったに過ぎず、米国カトリック司教協議会(USCCB)や、エキュメニカル・宗教間対話のための司教委員会の立場を代弁するものではなかった」という旨を通告しました。

 

IgnatiusInsight.com: カトリック信仰へのあなたの改宗は劇的なものでした。この改宗に対し、ユダヤ人の友人や知り合いからどのような反応がありましたか。

 

シューマン:反応は実に多様です。子供時代の自分のメンターであったラビの激怒、恩着せがましい軽蔑、困惑の混ざった関心、そして積極的問い合わせなど、、いろいろでした。もちろん、最後の「積極的問い合わせ」というのが最もありがたかったですね。特に、自分の本を読んでくれた一人のユダヤ人の友人が、洗礼盤のところまで付き添ってくれたのは本当にうれしかったです。

 

でも一番典型的なのは、大学院以来の親友ーー正統派ユダヤ教徒ーーの言葉でしょう。彼は、尻込みしたような感じで、でも同情心を持って言いました。「まあ、、これに関しては君が最初ってわけじゃないから、、」しかしユダヤ人読者からの反応全般は、自分が想像していたよりは温かいものでした。*7

 

ー終わりー

*1:訳注:ヤムニア会議は、ユダヤ戦争終結後、紀元90年代にユダヤ教(主にファリサイ派)のラビたちによって行われ、マソラ本文の定義と分類を決定した宗教会議とされていますが、近年、学者たちの研究により、この会議の信憑性に疑問がなげかけられているようです。詳しくは以下の文献をご参照ください。L. M. McDonald & J. A. Sanders, (eds.), The Canon Debate, 2002, chapter 9: "Jamnia Revisited" by Jack P. Lewis. / Kaiser, Walter (2001). The Old Testament Documents: Are They Reliable and Relevant?. Downers Grove: InterVarsity. p. 31. / Lewis, Jack P. (1964). "What Do We Mean by Jabneh?". Journal of Biblical Literature. 32: 125–130.

*2:訳注:

*3:Currell, Susan; Christina Cogdell (2006). Popular Eugenics: National Efficiency and American Mass Culture in The 1930s. Athens, OH: Ohio University Press. p. 203.

*4:訳注:マーガレット・サンガーの優生学およびファシスト倫理については、以下の著作をご参照ください。Gene Edward Veith, Jr., Modern Fascism, Chapter 6. "Life Unworthy of Life" Fascist Ethics; ナチスドイツにおける優生政策

*5:訳注:関連記事

*6:訳注:

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ジョン・ハジーと二契約神学(John Hagee and Dual Covenant Theology: Telling The Jews They Don't Need Jesus)here使徒的実践への「不適合」と「適合」の要素

*7: