巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

聖書の真理を愛し、歌い、どこまでも探求の旅をつづけたい。

CCMロック問題のルーツ:福音主義の腐敗化に重大な役割を果たしたピーター・ドラッカーの経営学理論とメガチャーチ(by アラン・ローバック)

サドルバック・ワーシップ・チャンネル

「ワーシップは、歌のスタイルや音量やスピード云々をまったく問題にしていません。神様はあらゆる種類の音楽を愛しておられます。なぜなら、神様がそれらすべてをお造りになられたからです。早いテンポの賛美、遅いテンポの賛美、けたたましい賛美、ソフトな賛美、古い賛美、新しい賛美・・・・あなたはそれらを好んでいないかもしれません。しかし神様はそれらを好んでおられるのです!」(サドルバック教会主任牧師リック・ウォーレン氏「パーパス・ドリブン・ライフ」より)

 

目次

 

はじめに

 

CCMロック礼拝を、単なる「教会音楽の選択をめぐっての問題」と捉えてしまうと、私たちは大局を見失ってしまうと思います。現在私たちが直面しているCCMロック問題は、表層に見えているほんの「枝」部分に過ぎず、むしろ突き止めるべきは、(ロック礼拝を含めた)一連の異常現象を次々と生起させている「悪性腫瘍」そのものではないかと思います。

 

私が、このブログの中で、一連の問題を、単に「現代教会音楽の問題」とは記さず、「CCM賛美哲学の抱える諸問題」と総括している理由もまさにそこにあります。

 

主流CCM運動の背後には、それを突き動かす特定の哲学・アジェンダがあり、それが彼らの音楽観(Music is amoral;音楽は道徳性と関係ない)を規定しています。つまり、音楽やスタイルの選択問題は、CCM賛美哲学及びそれに隣接する諸神学・運動を綜合したものから必然的に生み出される産物であり、それは決して孤立した単独問題ではないということです。

 

プロテスタント礼拝におけるCCMロックが、全体の中における「下部範疇」に属する問題であるというこの部分を押さえない限り、私たちのCCM論議は、どこまで行っても不毛な堂々巡りに終わってしまう可能性があると思います。逆に言うと、根本にある病巣部分に光が当てられ、そのアイデンティティーが特定化されることにより、解決の糸口が見えてくるのではないかと思います。

 

毒麦の教会ーーパーパス・ドリブン、「求道者にやさしい」教会、教会成長、そして新世界秩序 

 

Alan Roebuck, Peter Drucker’s Key Role in the Corruption of Evangelicalismより抄訳

 

最近私は、「毒麦の教会ーーパーパス・ドリブン、"求道者にやさしい"、教会成長&新世界秩序」という実にすぐれたビデオを観ました。

 

 

この検証ビデオは、福音主義内に存在するいわゆる"seeker-sensitive"(もしくはパーパス・ドリブン)運動を取り扱っており、ここから私たちは、福音主義を席巻している荒唐無稽な諸現象および背教についてのより良い理解を得ることができます。

 

ピーター・ドラッカーとメガチャーチ

 

本稿では、その中でも特に、ピーター・ドラッカーの果たした決定的に重要な役割について焦点を当てていきたいと思います。(ビデオでは1:04:00からその検証が始まります。)ドラッカーは1909年にウィーンで生まれ、1930年代に家族と共に米国に移住し、大学で教鞭を取るようになります。しかし知る人ぞ知るの事実ですが、ドラッカーは、現代の"seeker-sensitive"(求道者にやさしい)運動において決定的に重大な役割を果たしている人物なのです。

 

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ピーター・ファーディナンド・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker、1909-2005年)は、オーストリア・ウィーン生まれの経営学者。父親はフリーメーソンのグランドマスター(自伝『傍観者の時代』より。)

 

この運動は元々、ーー教会成長運動という名の下にーー、1950年代、クリスタル・カテドラル教会のロバート・シューラー牧師および神学校教授ドナルド・マックギャヴランにより独立的に始められていました。

 

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ロバート・シューラー牧師とクリスタル・カテドラル教会

 

この教会成長運動は、「どんなものを提供したら人々は教会に惹きつけられるのか?」(もしくは何が彼らを教会から遠ざけているのか?)といった社会学的諸要因を特定化し、そういった諸要因に関する知識を促進することに焦点を置きました。*1

 

しかし1980年代に入り、ドラッカーがこの運動に深大なる販売促進の火を投じました。--彼はリック・ウォーレン、ビル・ハイベルズ、ボブ・バフォードという三人の福音主義指導者を選び、彼らをメンタリングしながら、自身の経営学諸理論を、教会政治に適用するよう方向付けていきました。

 

ドラッカー自身、「自分は名ばかりのルター派であり、実質的にはキリスト者ではない」と公に認めています。にもかかわらず、そのような人物がなぜかくまでアメリカ福音主義キリスト教に関心を持ち、この運動を、20世紀における(ペンテコステ運動の次に)最も広範かつ影響力を持つプロテスタント運動とせしめたのでしょうか?

 

そこには、西洋の社会刷新に対する彼の深い願望がありました。ドラッカーは、共同体および「霊的諸価値」の回復により、現代の疎外問題に対峙することを望んでいました。ドラッカーの影響に関し、冒頭のビデオは次のように述べています。

 

 「若い時分、ドラッカーは、ナチズム及びコミュニズムの勃興を目撃し、(正当にも)西洋が根本的に病んでいるという結論に達しました。こういったイズムの興隆は、西洋社会に存在する根源的無秩序に因していると彼は考えたのです。彼はまず、政治に関する思索および著述を開始しました。その後、中期になると、ドラッカーは、『人が必要としているコミュニティーを提供することにより、企業が社会刷新の陣頭指揮を執ることができる』という信念に基づき、マネジメントに関する理論を形成することに専心します。しかし最終的に、彼は、企業ではなく、教会が、そういった社会刷新をもたらす鍵となると確信するようになります。」

 

ここで重要なポイントは、ドラッカーがこの結論に至ったのは、彼が聖書のメッセージーー人間の罪深さおよび、悔い改めとキリストへの信仰を通してのみの救いーーを信じたがゆえではないということです。

 

ドラッカーの見解では、ほとんどの教会は、個々人に「宗教的体験」を与えているだけで、それ自体はどんなに価値があっても、社会を回復するには至りません。

 

そんな彼を魅了させたのが、いわゆる「メガチャーチ」の存在でした。「メガチャーチなら、人々の必要をケータリングすることによって、大衆を惹きつけることができる」と彼は見ました。そしてドラッカーは、ーーそれがいかなる種類の教理を説いているかに関わりなくーーメガチャーチこそが、社会改良のための鍵であると確信するようになっていったのです。

 

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メガチャーチ

 

ドラッカーの選んだ三人の福音主義リーダー

 

こうしてドラッカーは、有能で若い福音主義教会リーダー三人を選び出し、集中的に彼らをメンタリングしながら、彼のビジネス理論を教会経営に適用させるよう指導していきました。こうしたパーパス・ドリブン運動の三先鋒は、

 

リック・ウォーレン(サドルバック教会主任牧師、『パーパス・ドリブン・ライフ』の著者)

ビル・ハイベルズ(シカゴにあるウィロークリーク教会の主任牧師)

ボブ・バフォード(リーダーシップ・ネットワークの創設者;"seeker-sensitive"およびイマージング・チャーチ運動を推進するリーダーの養成および促進するネットワーク)です。

 

リック・ウォーレンの壮大な働きと影響について要約することは困難ですが、彼は他の誰にもまさり、キリスト教(大部分はプロテスタント)を再定義するべく、世界規模のキャンペーンを繰り広げ、それを"成功"させている第一人者と言っても過言ではないでしょう。

 

ウォーレンの宗教商品は、内的な次元では、一見キリスト教らしく聞こえるスローガンや諸活動を通し、自尊心*2*3や自己向上を説き、外的な次元では、キリスト教的ベニヤ張りを施したセキュラーな善行主義(do-gooderism;エイズ・貧困・"無知"撲滅運動など)に対するキャンペーンを行なっています。

 

教会的「フランチャイズ」システムの導入

 

こういった体系を導入すべく、ウォーレンは、外的に成功したプロテスタント教会を運営するための、いわゆる「フランチャイズ」システムを作り出し、大々的にそれを促進しています。

 

この場合のおける「フランチャイズ」という語は適切です。というのも、フランチャイズにおいて、ビジネス経営者は、一般的ビジネスの詳細や彼のビジネスが提供している商品に関し、そこまで綿密に知る必要がないからです。本社(“Home Office”)が、経営者の必要とするあらゆる状況を提供してくれるのであり、経営者/主任牧師はただ、誰か別の人が打ち立てたシステムをうまく軌道に乗せるべく、そこに集中しさえすればいいのです。

 

そしてビジネスにおいては、顧客が王様です。「求道者にやさしい」教会のフランチャイズ方法論というのは、彼らの宗教的顧客を惹きつけ、コミットした顧客を引き留めるには十分な程度のキリスト教ーーでも難しい諸教理を提示して顧客を不快にさせるようなキリスト教であってはならないーーを提供することです。それゆえ、パーパス・ドリブン系の諸教会が、罪や刑罰の事実を人々に知らせ、人が悔い改めキリストを信じる必要があることをストレートに説くことは稀です。

 

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「教会に属していない人々("unchurched" people)は究極的な消費者です。彼らは実際、私たち牧師が説教するたびに、心の中で「私は彼の説くこのテーマに興味を持っているか否か」と考えています。そしてもしも彼らが私たちの説教の内容に興味を持っていないのなら、私たちの伝達がいかに効果的であったとしても、それは功を奏しません。彼らの思いはどこかに行ってしまうのです。」ビル・ハイベルズ, Today's Preacher.comより

 

その代りに、こういった諸教会は、教区民/顧客たちを満足させるべく、多種多様な企画やアトラクションを提供しています。

 

オクラホマ州タルサにあるチャーチ・オン・ザ・ムーブのクリスマス「礼拝」

 

また神学を基盤とするよりも、エンターテイメントをベースとした礼拝サービスを作り出しています。彼らは爆発的に大衆受けする疑似キリスト教商品を考案し、ーー識別力のあるキリスト者を除くーーすべての人の同意を得るには十分な程度のキリスト教を提供しています。

 

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牧者たちが羊を養う代わりに、道化師たちが娯楽でヤギを楽しませるような時代が、やがて教会に到来するだろう。――チャールズ・H・スポルジョン

 

キリスト教の「再定義」を図る

 

「求道者にやさしい」運動は、ただ単に教会により多くの人を惹きつけることに腐心しているだけではないということを強調しなければなりません。ボブ・デウェイ牧師は、パーパス・ドリブン運動を分析し、この運動の内包している本質的問題を露呈・暴露していますがhere、彼の言葉を借りると、パーパス・ドリブン運動は、キリスト教を「再定義」しようとしています。

 

自らのマーケット精通システムを正当化すべく、ウォーレンおよび彼の仲間たちは、教会をその土台から再考しなければなりませんでした。しかしそれと同時に、批判をかわし、警告を阻止するために、彼らは自分たちが伝統的福音主義に忠実であるのだという印象を周囲に与える必要がどうしてもありました。実に、「保守主義のように見える外観」と「ラディカルな変革」というこのコンビネーションこそが、seeker-sensitive運動をかくも破壊的なものにならしめているのです。

 

ビジョン・キャスティングとは何か?

 

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「ウォーレン主義」がいかにしてキリスト教を再定義しようとしているかの一例を挙げましょう。ーーそれはビジョン・キャスティング(“vision casting”;ビジョンの投げかけ)を通してです。

 

ウォーレンの理論によれば、神のみこころに従っている主任牧師は、神より個人的啓示をいただきます。そしてそれは、彼の教会が、地域の “unchurched”(教会に属していない)人々を惹きつけるべく、いかにして自身の教会ビジネスを運営すべきなのかについて正確に啓示してくれているものなのです。

 

そしていわゆるこの"啓示"が、彼らの言うところの「ビジョン」です。ひとたびこの「ビジョン」が啓示されるや、主任牧師は、このビジョンに追従するよう他の教会リーダーたちを説得する必要があります。そしてこの説得部分が、いわゆる“casting”(投げかけ)に該当します。

 

ウォーレンによると、長老や教会のメンバーたちは、牧師の「ビジョン」をサポートする神聖なる義務があります。(なぜなら、それは「神」から授与されたものだとされているからです。)

 

ビジョン・キャスティングの実例(↑ヨイド純福音教会のチョー・ヨンギ師によって、ビジョン・キャスティングに関するインスピレーションを得たというマーク・バッターソン牧師の展開する「ビジョン」の「投げかけ」)

 

またこの体系には、そういった新しい体制導入に対し疑問を差し挟むトラブルメーカーたちを駆除することのできる構造も内蔵されてあります。ウォーレン主義は、リベラリズムの如くあります。つまり、概してそれは、現代に対する合理的順応という触れ込みを提示する明白なる革命的教理なのです。

 

彼は、自身のメガチャーチや、ウォーレン主義の影響下にある何千何百という教会に影響を及ぼすことによって社会刷新を図ろうとしているにとどまりません。ウォーレンにはまた、世界規模での社会刷新に対する特別なプランがあるのです。彼がピース・プラン(PEACE Plan)と呼んでいるこのプログラムは、貧困、病気、非識字といった「グローバルな巨人たち」を撲滅しようとの目的で設立されました。

 

ウォーレンの野望は非常に大きく、『タイム』誌によると、2008年には、ルワンダの大統領が自国を、世界初の「パーパス・ドリブン国家」にすると宣言したとの報告がなされています。しかしこのピース・プランには「教会が何を成すべきか」との福音宣教に関する言及は一切ありません。

 

「ピーター・ドラッカーの最適共同体に対する求めの動機自体は悪いものではなかったと思います。しかしメガチャーチ及びイマージング・チャーチ・ムーブメントの中に注入された彼の世俗的ビジネス経営哲学は、キリストのみからだに注射されたステロイド剤の如く、不自然にしてモンスター規模の成長を促しています。そしてそこから今後生じてくるであろう諸結果は、深刻且つ致命的な種類のものだと予測されます。」(冒頭ドキュメンタリーの1:25:20)

 

ビジョン・キャスティングは聖書的か?(クリス・ローズブロー師による検証VTR)

 

西洋教会の空洞化と腐敗

 

「求道者にやさしい」運動は、現在、圧倒的にリベラルな社会から大量の数の未信者たちを惹きつけようとしているため、この運動は、リベラリズムの毒をーー少なくとも潜在的に、そして多くの場合明らさまな形でーー是認する道を突き進んでいます。

 

ドラッカーが作りだしたパーパス・ドリブン運動は、社会を刷新するという本来の目的に何ら根本的意義をもたらしていないばかりか、西洋の教会を空洞化させることにより、腐敗化の深度をさらに進行させる結果をもたらしています。

 

サドルバック・ワーシップ・チャンネルより

 

また、“the unchurched”(教会に属していない未信者のこと)を教会に惹きつけるために、この運動の牧師/経営者たちは、聴衆が聞きたい内容を彼らに語ってやらねばなりません。キリストがお命じになっている教えよりも、聴衆が聞きたがっていることを優先させることにより、才能とマーケティング戦略に長けた牧師は、自分の教会に莫大な数の顧客/教区民を引き寄せることができます。

 

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しかしひとたびそういった聴衆が教会に根付き始めるや、「求道者にやさしい」運動の牧師は、あえて彼の教区民/顧客に真理を語ろうとはしません。仮に彼が、人々に対し、彼らの罪の実態に関する真理や、神の怒りから自らを救うことの不可能性や、悔い改めの必要性を説き始めるのなら、ほとんどの人は教会を去ってしまいます。

 

でもそれでは困るのです。なぜなら、彼らが去ってしまうと、彼らのお金、彼らの無給の奉仕、教会出席者の「頭数」も共に去ってしまい、、、そういった全てのものは、「求道者にやさしい」牧師/企業家たちが愛し、渇望してやまないものだからです。*4

 

ー終わりー

 

*1:関連記事 

*2:自尊心の教えを福音主義界に注入したロバート・シューラー牧師は著書『自己愛――成功のダイナミックな力』の中で次のように述べています。「自己愛というのは、自尊心(self-worth)における最高の感覚です。それは自尊(self-respect)という高尚な感情であり、、自分自身に対する不変の信仰です。それは自分自身に対する誠実なる信念なのです。」「自己愛は自己発見、自己修練、自己に対する赦し、そして自己是認を通してやって来ます。またそれは自己に対する信頼、自己に対する自信を生み出します。」(Self-Love, The Dynamic Force of Success, p. 32)

*3:ウォーレン師とロバート・シューラー牧師のつながりはリック・ウォーレン師の奥さん(ケイさん)が証言しています。(以下、Christianity Today, 2002年11月号)「神学校最後の年に、彼とケイはロバート・シューラー師の主催する教会成長学院を訪問しました。『私たちは当初この会合にほとんど関心を持っていませんでした。』と彼女は言います。なぜなら、そういった非伝統的なミニストリーを彼女は非常に恐れていたからです。しかしシューラーは完全に彼らの心を捕えました。「シューラーは、リックに深い影響を与えました」と妻ケイは語ります。「私たちは、未信者に対するシューラーの積極的な態度に魅了されてしまったのです。それ以後私はもう、後ろを振り返りませんでした。」〔こういった自己愛・自尊心の教えに関する警告・検証記事〕Learn To Love Yourself!Learning to Love Yourself | thebereancall.org

*4:「求道者にやさしい」教会と繁栄の神学の実態

ピーター・ドラッカー及びリック・ウォーレンの共同体理論に関し参考になる資料:Chris Rosebrough, RESISTANCE IS FUTILE: You Will Be Assimilated Into the Community, PDF, audio