巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

聖書の真理を愛し、歌い、どこまでも探求の旅をつづけたい。

宗教改革者たちの叫び(11)―トーマス・クランマー(16世紀、英国)

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トーマス・クランマー(英国の宗教改革者、1489-1556)

 

メアリー・チュードル治下のカトリック反動化による大迫害の下、1556年3月21日、宗教改革者トーマス・クランマーは、焚刑による殉教死を遂げました。

 

彼はかつて一度、カトリック教権側の重圧に屈し、自説を取り消し、取り消し状に署名したことがありました。しかし処刑場に引いていかれたその日、彼は公に、その取り消しを取り消し、火あぶりの時には、取り消し状に署名した手が燃え切ってしまうまで、手を火に突っ込んでいたと教会史家ケアンズは記しています。(E・ケアンズ『基督教全史』p445)

 

また、その当時、命の危険を冒し、クランマーをはじめとする同時代の殉教者たちの記録を本に記していたジョン・フォックスは、『殉教者列伝』の中で、クランマーの最期を次のように締めくくっています。

 

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 「それから、クランマーの体に鉄の鎖が巻きつけられた。死刑宣告にも動じない彼の様子をみた彼ら〔大司教やスペイン人修道士ジョンおよびリチャード等〕は、彼の体に火をつけるよう命令を下した。蒔に火がつき、炎が彼に近づいてくると、クランマーは腕を伸ばし、自分の右手を炎の中に突っ込んだ。

 

 その様子は相当に毅然としまた不動のものであったため、処刑場に集まっていた人々は皆、彼の体が燃える前に、その右手が燃えるのを目撃した、、炎の中、彼の目は高く天に向けられ、声の続く限り、『おお卑しむべきこの右手よ!』と叫んでいた。そしていよいよ炎が燃え盛る中、彼は『主イエスよ。私の霊をお受けください』とステファノの祈りをしばし繰り返し、こうして息絶えた。」(John Foxe, Foxe's Book of Martyrs, p.386-387.)

 

現在に至るまで英国国教会の礼拝の根幹をなしているThe Book of Common Prayer(共通祈祷書、1552年初版)は、クランマーの作成したものです。この祈祷書の中には彼の手による、数多くの美しい祈りが織り込まれています。

  

「おお全能にして、もっとも慈しみ深き御父よ、

私たちは道に迷った羊のように、あなたの道から逸れ、彷徨ってきました。

私たちはこれまであまりにも、自分たちの心の欲するままに、いろいろな事を企画し、それに従ってきました。

こうして私たちはあなたの聖なる掟を害し続けてきました。私たちは本来やるべき事をないがしろにし、逆にやってはならない事をやってきました。」(私訳)

 

「おお主よ、汝に懇願いたします。どうか私たちの闇を照らしてください。そして汝の大いなる憐みにより、今夜もあらゆる危険から私たちをお守りください。」

トーマス・クランマー、夕べの祈り(私訳)

 

こういった祈りの詰まった祈祷書の霊性に感動したジョン・ウェスレーは次のように言っています。「これほどまでに堅固にして、聖書的、且つ敬虔なる霊性の息が吹き込まれた祈りの本は、古代語であれ現代語であれ、世界中どの典礼であれ、この共通祈祷書を凌ぐものはおそらく他にないのではないかと思う。」

 

(The Book of Common Prayer のデボーショナルな使い方について。by マシュー・エヴァハード師、フェイス福音長老教会牧師)