巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

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聖書信仰のクリスチャンはチョムスキーの生成文法をどのように評価すべき?(by ヴェルン・ポイスレス)【大学生の皆さんへの応援記事 その2】

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目次

 

訳者はしがき

 

この記事は、「聖書信仰のクリスチャンはソシュールの構造言語学をどのように評価すべき?」の姉妹版に当たります。前の記事で、私たちは、20世紀に、「歴史」から「構造」へという大きな思想転換があり、その流れの中でソシュールの構造言語学が誕生したことを見てきました。

 

構造言語学、アメリカに上陸

 

その後、構造言語学は、1930年代以降、アメリカ大陸で盛況を誇り、「アメリカ構造言語学*1」として発達していきます。その中でも特に、レオナルド・ブルームフィールド (Leonard Bloomfield, 1887ー1949)という人物の活躍が目立ちました。

 

彼は1933年に Language(『言語』)という著書を出し、意味の研究の中に行動主義的原理を取り入れました。

 

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レオナルド・ブルームフィールド

 

行動主義(behaviorism)というのは、唯物論・機械論の一形態であり、外からは観察ができない心 (mind) の独在を認めません。また行動主義は、「自由意志は錯覚であり、行動は遺伝と環境の両因子の組み合わせによって決定されていく」という自然主義的決定論(Naturalistic determinism)の立場を採っており、キリスト教弁証家のノーマン・ガイスラー師が述べているように、これは私たちクリスチャンが到底受け入れることのできない立場であり世界観です。*2

 

また、ブルームフィールドやアメリカ構造言語学が1930年代から50年まで一世を風靡した伏線として、そこにB・F・スキナーなどの行動主義心理学、それから論理実証主義*3の存在があったことも見逃せません。

 

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B・F・スキナー(B.F. Skinner, 1904-1990)。20世紀において非常に影響力の大きかった心理学者の一人で、自らの立場を徹底的行動主義(radical behaviorism)と称しました。系統的に行動主義心理学の一員で、他にトールマン、ハル、ガスリーなどがいます。無神論者。

 

 「当時の心理学は行動主義心理学の全盛期であり、人間の行動をすべて刺激とそれへの反応が一般化したものと捉え、直接観察可能でない心的現象行動についても観察可能な行動に還元する傾向にあったことがあげられる。 

 心的現象に関わる意味論は、心理学のこのような傾向に歩調を合わせる形で優先順位を後にされ、生成文法の萌芽期と時期的に重なる成分分析まで延期されていた。

 また、アメリカ構造主義は『科学的方法』を看板とし、科学哲学としては論理実証主義を背景として検証可能なもののみを言語学の対象としていたが、その対象を自ら狭め、また音素、形態素の認定に意味が果たす役割には無自覚であるか、あえて不問に付していた。 

 その結果、アメリカ構造主義においては多くの言語を対象としたデータの膨大な蓄積をもたらしたが、その一方で伝統的言語研究とは断絶状態となって多くの重要な設問は禁止された状態にあり、データの蓄積が言語に対する洞察を深めることにはならなかった。」(参照) 

 

ノーム・チョムスキー、突如としてアメリカ言語学界をひっくり返す

 

そんな最中、アメリカ構造言語学を根柢から揺るがすような大地震が突如として起こったのです。そうです、ノーム・チョムスキーの登場です。

 

50年代後半に相次いで出版されたチョムスキーの一連の著述群*4によって、ブルームフィールドを始めとするアメリカ構造主義言語学は瞬く前に影響力を失っていきました。

 

その到来はまるで高速ジェット機の如くあり、人々が口をぽかんと開け唖然としている間に、米国言語学界は、「経験論を基にするアメリカ構造主義」から、「合理論を基とするチョムスキーの生成文法」へと一変してしまったのです。

 

日本語訳聖書にも影響しているチョムスキー理論

 

「いや、チョムスキーとかそういうこの世の学問の詳細に頭を突っ込むのではなく、私たちはただ一途に聖書の研究に精進すべきです」とお考えになっている方がいるかもしれません。

 

ですが、仮に、私たちの使っているその聖書の土台となっている翻訳理論が、(直接的・間接的に)チョムスキーの生成文法に影響を受けているとしたら、どうですか?

 

例えば、共同訳聖書(新共同訳の前のバージョン)は、ユージン・ナイダのダイナミック(動的)等価翻訳理論を指針をして採用していましたが、ナイダのこの翻訳理論は、チョムスキーの生成文法から確実に影響を受けています。*5

 

 「日本語では共同訳聖書の作業にあたって〔ユージン・ナイダの〕この理論が指針として採用され、ナイダが来日して講演するなどしている。

 しかし、動的等価翻訳理論は翻訳者の判断で原文を大きく捻じ曲げているに過ぎないという批判もあり評価は分かれる。共同訳聖書でも批判が相次ぎ、作業をやり直した新共同訳の翻訳委員会では動的等価翻訳を指針から外している。」(参照

 

クリスチャンの間でいろいろと批判があり、新共同訳の翻訳委員会が結局、指針から取り外したというそのユージン・ナイダの翻訳理論が一体いかなるものであるのか、皆さん、がぜん興味が湧いてこられたことでしょう。そしてナイダ師に影響を与えたチョムスキーなる人物の言語理論が一体どのようなものであるのかも。

 

さらに、みなさんが大学を卒業後、宣教師となってどこかの遠隔地域に派遣されたり、あるいは未だ文字を持たない少数民族の元に遣わされ、聖書翻訳の働きに従事するよう導かれた場合にも、チョムスキーの理論や、フォーマル等価翻訳 vs ダイナミック等価翻訳など、それぞれの理論の基本的な枠組みを知っておくことは、みなさんにとっても、そしてみなさんの働きを通して今後、霊的影響を受けていくであろう宣教地の民族の霊的福利の為にも、重要だと思います。

 

一極集中の人になろう

 

私たちは言語に関し、ある意味、「鬼」のようにならなければならないと思います。

 

大学時代、皆さんは与えられたその時間をどのように使いたいと願っていらっしゃいますか?私たちには多くの自由があり、また多くの選択肢が与えられています。しかしキリストの囚人として召された私やあなたには、この世でどうしても果たさなければならない一つの使命があります。それはマタイ28章の大宣教命令の遂行です。

 

そしてこの一つの使命を果たすために、私たちは人生の枝葉瑣末な一切合財を捨て去らなければなりません。そしてその険しい涙の道を通りつつ、私たちは未だ福音を知らない民族の元に遣わされ、彼らと共に生き、彼らと共に泣き、彼らの心にキリストの福音を伝えるために、今日というこの時点から、脇目もふらず一心に言語習得に励んでいかなければなりません。

 

私たちは御霊の力と一極集中により、聖書原語、英語、そして宣教地の諸言語・諸方言をマスターしていきます。ヘンリー・マーティンは、20代にして、新約聖書をコイネー・ギリシャ語からアラビア語とペルシャ語に翻訳しました。彼は夭逝しましたが、日記をコイネー・ギリシャ語で書いていたほど原語に精通していたそうです。*6 

また、同じく夭逝したスコットランドの伝道者ロバート・マクシェーンも、牧会の傍ら、アンドリュー・ボナール、ホラティウス・ボナールなどと共にヘブライ語・ギリシャ語の習得に励んでいました。*7

 

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あなたの心をこの世の花々に置いてはなりません。こういった花々はやがてしぼみ、枯れていきます。シャロンのバラであり、谷のゆりであるこの御方にこそ心を留めなさい。この方は変わることがありません。この地上の誰よりも、キリストに近く生き、歩むようにしなさい。 ロバート・マーレー・マクシェーン(1813-1843)

 

中国に派遣されたハドソン・テーラーは、数多くの民族に福音を伝えるべく、骨折りつつ数多くの方言をマスターしていきました。インドに遣わされたウィリアム・ケアリーも同様です。彼らは皆、一極集中の人たちでした。

 

どうか私たち一人一人が、いのちの御言葉を愛し、その伝播に人生を賭ける者とされますように。

 

ーーーーーーーー

Vern Poythress, In the Beginning Was the Word: Language--A God-Centered Approach(「初めにことばがあった:言語ーー神中心のアプローチ」), Appendix E, The Contribution of Structural Linguistics, p.335-337(拙訳).

 

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ヴェルン・ポイスレス(ウェストミンスター神学大、新約解釈学)

 

チョムスキー革命

 

チョムスキーが1957年に出版した『統辞構造論』(Syntactic Structures)は、後に生成文法(generative grammar)として知られるようになる文法理論の基盤を打ち据えました。*8

 

65年に出された『文法理論の諸相』(Aspects of the Theory of Syntax)*9と共に、『統辞構造論』は、(特に米国における)言語学研究の方向性にとてつもない影響を及ぼしました。

 

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Noam Chomsky (1928-)

 

彼の理論が人気を博した理由の一つは、その厳密さと形式化にあるでしょう。そしてそれは次のような印象深い結論を出すに至りました。「形式文法の単純型の、あるものは、数学的に厳密な方法により、自然言語の複雑性には不十分であることが証明され得る。」

 

厳密さと形式化にともなう代価

 

しかし、いつものことながら、厳密さと形式化には、代価が伴います。チョムスキーは、言語というのが「(有限 or 無限の)一式の文であり、それぞれは、長さにおいて有限であり、そして一連の有限な諸要素から構成されている」と規定しました。*10

 

「言語が統語論の厳密なる数学的分析に従属することを可能にする」こういった定義は、文脈の役割(状況に関する文脈も、そして段落やそれよりも大きいセクションにおける談話文脈をも)無視しています。

 

これはかなりの単純化ですが、残念なことに、チョムスキーはその単純化の深度をはっきりとは認めていませんでした。

 

この定義のすぐ後の文で彼はただ単に、「話されている、あるいは成文化された形態の全ての自然言語は、こういった意味における言語である」と述べるにとどまっています。また、「文法性が意味から独立したものであり、それは最初の近似性としてのみ真である」といったほのめかしも、ここに見い出されます。*11長い目でみると、文法的範疇というのは、有意味なコミュニケーションの行使の中でのみ道理にかなうものになります。

 

核文と非核文との間の区分

 

チョムスキーはまた、核文(kernel sentences)と非核文(nonkernel sentences)との間の重要な区分を導入しました。*12

 

おおざっぱに言って、核文とは、単純な能動態の文です。(例:"The boy fed the dog.")そしてこういった文は、句構造規則や、義務変形(obligatory transformations)の適用によるチョムスキーの形式主義により生じました。*13

 

一方、非核文とは、"The dog was fed by the boy" のような受身文を含んでおり、"It was the boy who fed the dog." といった表現を引き出しています。

 

そして随意変形(optional transformations)は、いかにして能動の節構造("The boy fed the dog.")からそれに関連する受身の構造("The dog was fed by the boy.")移動させることができるのかを特定しています。

 

さらに、私たちは "The boy's feeding the dog."といったような表現をも考慮しなければなりません。また、"The boy fed the dog because it was mealtime." という文は、二つの核文、すなわち、① "The boy fed the dog." ② "It was mealtime." に由来しており、こうした派生は、随意の「変形」を用いています。

 

あらゆる複雑な文、および、核文から引き出されるその他の文章の型は、随意変形規則を、元来の核文に適用させることにより生じています。*14

 

この図式は、意味分析の可能性の門戸を開き、その中にあって、文の意味は、「個々の核文の意味の総計」、および「各核文の間の文法的つながりによって特定される核文間の意味関係」ということになります。

 

こういった分析は確かに魅力的に思われます。なぜなら、多くの場合においてそれはまさしく真理に接近しており、またそれは、私たちが文を関連づけている核となる意味(基本的意味)のいくばくかを捉えているからです。しかし意味の全体的な総計として見れば、それは明らかに還元主義的です。

 

まとめ

 

言語学は1957年、そして65年に起こったチョムスキー革命以来、発展を続けています。チョムスキーの生成文法は最終的に、統率・束縛理論(the theory of government and binding)、そしてミニマリスト・プログラム(極小主義プログラム)に変異していきました。*15

 

こういった諸理論の詳細構造はかなりの変化を遂げましたが、形式化および還元主義のスピリットは残存しつづけています。

 

一方、競合するその他の諸理論から新たな挑戦も出てきています。例えば、意味中心アプローチをとる認知言語学は、生成文法およびその後継者たちの採る文法中心アプローチに挑戦しています。*16

 

また、代替となるようなその他の言語諸理論も引き続き、追従者を惹きつけています。*17

 

意味論もまた、(これといって特定の文法〔or 音声〕理論に依拠することのない場合も)、今日に至るまで継続した関心を集めています。*18

 

論理一貫した代替物としての複数の理論アプローチが可能であるという事実は、結局どのアプローチにしても、その理解において選択的であり(それゆえ潜在的に還元主義的である)ということを私たちに物語っていると思います。*19

 

ー終わりー

*1:〔以下は、世界大百科事典内の「アメリカ構造言語学」に関する説明です。〕

アメリカ・インディアン諸語を広く研究した E.サピアはその著書《言語Language》(1921) の中で音声的実態とレベルを異にする音韻論的体系の存在に気づき,これを〈音声パターンsound pattern〉と呼ぶ一方,言語の意味や機能よりは形式の方が体系として研究しやすいことを説き,歴史的・発生的関係に頼らずに純粋に形式的な基準による言語の類型論的分類への道を開いた。

しかしアメリカ構造言語学の開祖となったのは彼と同年代のL.ブルームフィールドで,その著書《言語Language》(1933) は行動主義心理学に基づく記述言語学の具体的な方法論を明快に示すものであった

その手法は、観察可能な外面的要因から出発して言語コミュニケーションの内容へと至る反メンタリズムanti‐mentalismのアプローチと,一言語体系の諸単位が占め得るあらゆる位置的分布の記録・分析による機能や意味の同定であり,後者はとくに分布主義 distributionism と呼ばれるアメリカ構造言語学特有の方法的特徴となった。

*2:詳しくは、以下の記事をご参照ください。

*3:

*4:『言語理論の論理構造』(The Logical Structure of Linguistic Theory、1955/1975)、 『文法の構造』(Syntactic Structures、1957)等

*5:詳細に関しては、Vern S. Poythress, In the Beginning Was the Word: Language--A God-Centered Approach, Appendix F,  Translation Theory, p.338-349 をお読みください。また関連記事としては以下のようなものがあります。

*6:

その2

*7:D.A.Carson, For the Love of God, Volume One.

*8:Noam Chomsky, Syntactic Structures (The Hague: Mouton, 1957). 勇康雄訳『文法の構造』研究社出版、1963年、もしくは、別の日本語訳としては、福井直樹、辻子美保子訳『統辞構造論――付「言語理論の論理構造」序論 』岩波書店、2014年

*9:Noam Chomsky, Aspects of the Theory of Syntax (Cambridge, MA: MIT Press, 1965). 安井稔訳『文法理論の諸相』研究社、1970年

*10:Chomsky, Syntactic Structures, p.13. チョムスキーはまた、単語の並びは、こぎれいにさっぱりと、文法的および非文法的型に収まると前提した上で、それを理想化・観念化(idealization)だと認めています(p.14)。「有限状態の文法が自然言語には不十分である」というその印象深い結果を出すべく、彼はまた、「人間記憶の有限性は、実質上、文の長さに制限を置いているわけであるが、それでも、文というのは無制限に複雑であるかもしれない」という理想化・観念化を導入しなければなりませんでした(p.23)。

*11:同著, p.15、それから、この点に関するさらに詳細な議論は, p.92–105.

*12:同著, p.45.

*13:句構造規則(phrase structure rules)というのは、ひとそろいのシンプルな諸規則のことであり、それらが一緒に用いられる時、主語と動詞(そして時には目的語)を持つ最もベーシックな構造を造り出します。そして、変形(transformations)というのは、どのようにして一つの文法構造を、「変形された」別の構造に移動させることができるのかを特定している、特定諸規則のことです。その一つに、例えば、「受身への変形 “passive transformation"」というのがあり、これは“The boy fed the dog”という〔能動態の〕文を、“The dog was fed by the boy”という〔受動態の〕文に変換させます。厳密に言うと、こういった変形は、単語の並びをベースに機能するのではなく、付加的文法ラベルを含むツリー構造(tree structures)をベースに機能しています。詳細については、Chomsky, Syntactic Structures, 34–48; Lyons, Introduction to Theoretical Linguisticsを参照のこと。

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*14:厳密に言うと、この随意変形は、「核文を明確に示す諸形態、、もしくは先行する諸変形」に適用されます。(Chomsky, Syntactic Structures, p.45.)

*15:以下の著述を参照。 Noam Chomsky, Rules and Representations (New York: Columbia University Press, 1980) 和訳:井上和子、神尾昭雄、西山佑司訳『ことばと認識――文法からみた人間知性』大修館書店、1984年; Chomsky, Lectures on Government and Binding (Dordrecht/Cinnaminson, NJ: Foris, 1981) 和訳:安井稔、原口庄輔訳『統率・束縛理論』研究社出版、1986年; Chomsky, Some Concepts and Consequences of the Theory of Government and Binding (Cambridge, MA: MIT Press, 1982) 和訳:安井稔、原口庄輔訳『統率・束縛理論の意義と展開』研究社出版、1987年; Chomsky, Language and Problems of Knowledge (Cambridge, MA: MIT Press, 1988) 和訳:田窪行則、郡司隆男訳『言語と知識――マナグア講義録(言語学編)』産業図書、1989年; Liliane Haegeman, Introduction to Government and Binding Theory (Oxford: Blackwell, 1991); Andrew Radford, Syntax: A Minimalist Introduction (Cambridge: Cambridge University Press, 1997); David Adger, Core Syntax: A Minimalist Approach (Oxford: Oxford University Press, 2003).

*16:David Lee, Cognitive Linguistics: An Introduction (Oxford: Oxford University Press, 2002); William Croft and D. Alan Cruse, Cognitive Linguistics (Cambridge: Cambridge University Press, 2004)を参照。

*17:参照:Mary Dalrymple, Lexical-Functional Grammar (San Diego: Academic Press, 2001); René Kager, Optimality Theory (Cambridge: Cambridge University Press, 1999). また、タグミーミックス理論と言われる、より非形式的で、発見志向的、そして反還元的な理論も未だ価値を持っていると私は考えています。(Kenneth L. Pike, Linguistic Concepts: An Introduction to Tagmemics [Lincoln: University of Nebraska Press, 1982]).

訳者注〕言語学者であり人類学者であるケネス・リー・パイク(1912-2000)について。

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パイクはボストンのゴードンカレッジで神学を学んだ後、1935年にキャメロン・タウンゼントが始めた聖書翻訳のための国際SILに参加し、その強い影響を受けました。

その後、メキシコでミシュテカ語の調査を行いつつ、1951年にはミシュテカ人と共同して新約聖書のミシュテカ語訳を完成しました。1950年代にはいると、パイクの興味は音声学から文法理論へ、さらに人類の文化全般へと移行していきました。

パイクの考案したユニークな概念に、「イーミック」と「エティック」というのがあります。彼の見解によれば、音韻論の概念を一般化し、ある文化に属する人にとって意味のある文化単位のことが「イーミック」で、それと対になる概念が「エティック」です。パイクは、1942年から1979年までの長期にわたって国際SILの会長をつとめ、100を越える言語の分析に関して助言を行いました。

*18:John Lyons, Semantics, 2 vols. (Cambridge: Cambridge University Press, 1977); D. Alan Cruse, Meaning in Language: An Introduction to Semantics and Pragmatics (Oxford: Oxford University Press, 2000) 参照。

*19:Pike, Linguistic Concepts, 5–9, on the role of theory in language analysisを参照。