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巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

聖書の真理を愛し、歌い、どこまでも探求の旅をつづけたい。

ユング心理学がキリスト教会に与えている脅威について(by ドン・マツァット)【前篇】

ポストモダニズムと聖書の真理

 

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The Intrusion of Psychology into Christian Theology: A three-part discussion of the threat that modern psychology poses to the Gospel of Jesus Christ, by Don Matzat より抄訳here

 

(執筆者ドン・マツァット師は、聖書主義ルーテル派教団 The Lutheran Church-Missouri Synodの教役者です。)

 

第3章.心理学的神秘主義(Psychological Mysticism)

 

80年代、私はシカゴ近郊にある大きなアッセンブリーズ・オブ・ゴット教会で開催されたカリスマ派の会議の講師として招かれました。ローマ・カトリック教会の司祭も講師として招かれていました。

 

そしてこの司祭は、自分の担当する夜のセッションの途中で、厖大な数の聴衆に向かい、「インナー・ヒーリング(内なる癒し)」体験に参加するよう呼びかけました。

 

「視覚化(visualization)」というメソッドを用いた上で、彼は聴衆を、出生時から現在に至るまでのさまざまな過去の人生の諸段階へと「退行(regress)*」させつつ、過去のトラウマ体験の記憶を呼び覚ますよう彼らを誘導しました。

* 「退行」とは、以前の未熟な発達段階へと戻ることを指します。―心理学用語集より(引用元

 

そして彼は、心的イメージや、むせび泣き、号泣、苦悶の叫びといった状態に人々を導いた上で、「そのトラウマの出来事が起こったその時、イエスさまがそこに居られたということを視覚化してください」「それによって、主の愛といやしがそのトラウマ体験の中にもたらされるのです」と彼らを励ましました。 

 

私は驚くべきこの光景を目の当たりにしながら、こう思わざるを得ませんでした。「この司祭はいったいどこからこの教えを得たのだろう?」と。

 

それまで「インナーヒーリング」運動について多少話は聞いていましたが、それが実際にどのようなもので、いかに機能するのかということは全く知らなかったのです。そこで私は帰宅後、その問いに答えるべく「インナーヒーリング」に関する研究を始めました。そして18カ月後、私はこの研究結果を基に、Inner Healing: Deliverance or Deceptionという著書を発行しました。

 

インナーヒーリング研究を進める中で、私はその背後にある、精神分析医カール・G・ユングの諸理論や哲学の重要性にはっと息を飲む思いがしました。アグネス・サンフォードは、インナーヒーリング運動の母と称されている人物ですが、彼女は、自説をサポートすべくしばしばユングの教えや理論を引用しています。(特に、著書「The Healing Gifts of the Spirit」の中で。)

 

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アグネス・サンフォードは、息子である聖公会司祭ジョン・A・サンフォード及び、彼女の牧師であるモートン・T・ケルシー(Morton T. Kelsey;彼もまた聖公会司祭)によってかなりの影響を受けているものと考えられます。そしてジョン・A・サンフォード、モートン・T・ケルシー両氏ともに、(ユング学院の拠点である)チューリッヒで訓練を受けたユング派の精神分析医です。

 

そして、インナーヒーリング体験は、ユング諸理論の上の構築された広範囲に及ぶ心理学的神秘主義のほんの一部に過ぎず、実際には――プロテスタント、カトリック信者を問わず――無防備なクリスチャンの多くを惹きつけているという事実を知るに至りました。

 

それゆえ、この心理学的神秘主義を理解するために、私たちはまず、カール・グスタフ・ユングの理論に取り組む必要があります。

 

カール・G・ユング

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Carl Gustav Jung (1875-1961)

 

カール・ユングは元々、ジークムント・フロイト(Sigmund Freud )の仲間であり、彼の後継者と称されていました。しかし彼らの友好関係は短命に終わりました。ユングは、無意識の内容に関する問題をめぐってフロイトと対立し、二人は袂を分かつようになりました。

 

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Sigmund Freud (1856-1939)

 

つまり、フロイトが、「無意識には、抑圧された性的内容が包含されている」と考えていたのに対し、ユングは、自分の経験を基に、「無意識にはまた、宗教的、神話的内容も包含されている」という理論を立てたのです。

 

フロイトはこの若い徒弟ユングを戒め、性的理論を捨てず、むしろそれを「オカルティズムという黒泥に対する防波堤」として高揚させるよう言いました。

C. G.. Jung, Memories, Dreams, Reflections, (Vintage Books, 1965), p. 150.

 

ユングは、フロイトの無意識理論に新しい別の次元を加え、これを「集合的無意識(ドイツ語:Kollektives Unbewusstes、英語:Collective unconscious)」と命名しました。

 

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カール・ユングの提唱した「集合的無意識」(図の一番下の部分がそれに当たります。)

 

ユングによれば、それは、人間の無意識の深層に存在する、個人の経験を越えた先天的な構造領域であり、過去より現在に至るまで、すべての人類は、この無意識の深層でつながっているというのです。それゆえ、各個人の深層には、――あらゆる諸宗教および神話的内容を含めた――永代に渡る集合的知恵が存在するのだ、とユングは考えました。

 

また、オカルト主義者やニューエイジの支持者たちは、ユングにより、オカルト現象や神秘体験に「科学的」基盤が置かれるようになったと考えています。

 

実際、ユングは生前、深くオカルトに関与しており、博士論文でも「超心理学」を取り扱っています。彼はまたカトリック神秘主義にも関心を抱き、イグナチオ・デ・ロヨラの教えに関するセミナーも開いていました。

 

ユングは、集合的無意識の内容を、全人類が共通して保持している「元型(げんけい)ドイツ語:Archetyp /Archetypus,英語:archetype」と描写しました。彼は、戦士、母、賢人、自我、神などを「元型」と捉え、これらの元型がしばしば、夢や心理的イメージを通して意識下に突如、表出してくることがあると言いました。

 

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元型的象徴としての天使(引用元

 

ユングの弟子たちによれば、ユングの最大の発見業績は、集合的無意識の内容に到達する手段としての、「積極的想像」ないしは「視覚化(ヴィジュアライゼーション)」の使用です。

 

フロイトとの衝撃的な決別後、ユングは7年間を要し、視覚化を通した無意識の内容を研究していたとされており、その経過を、かの悪名高き日誌「赤本」に記しています。ある人々は、ユングは、無意識の領域へ足を踏み入れていたというよりも、むしろ精神病的破城状態を経験していたのではないかと推測しています。

 

ユングは、自分の意識下に表出してくる諸イメージは、それ自体、独自の生命を宿していると主張していました。そして彼は――「フィレモン」という名の――自分を導く霊とコンタクトを取っており、このフィレモンとの接触によって多くの「知恵」を授けられました。

 

神学者ルドルフ・オットー(Rudolf Otto)の用語を用いた上で、ユングは視覚化された諸イメージのことを「ヌミノーゼ, numinous」つまり、霊的な実体をもつ存在として描写していました。

 

インナーヒーリングの教師たちは、ユングのこの「イメージ」描写を取り入れ、次のように主張しています。「過去のトラウマ体験に持ち込まれたイエスのイメージは、空想の産物でもなく、想像でもなく、実際にリアルで霊的なイエスご自身の臨在そのものなのです。」

 

人気のインナーヒーリング教師リタ・ベネットは、視覚化されたイエスのイメージに出会って「救われた」ある女性の話を紹介しています。いったい、福音宣教の場に何が起こってしまっているのでしょうか?

 

Rita Bennett, Emotionally Free, (New Jersey: Revel, 1982), pp. 74-89.

 

【後篇】につづきます。