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巡礼者の小道(Pursuing Veritas)

聖書の真理を愛し、歌い、どこまでも探求の旅をつづけたい。

「1テモテ2:12の正しい訳は、『私は、女が教えたり、自分こそが《男の起源である》と宣言したりすることを許しません』です。」―この主張はどうでしょうか?【authenteoの意味】

1テモテ2:12検証 創造 VS 文化的解釈 対等主義(Egalitarianism) 女性牧師問題で悩んでいる方々へ

ある日本語サイトの説教録より一部引用させていただきます。対等主義の立場からの1テモテ2:12の解釈です。

 

V11-15a  特定の女を指して、あの女に教えさせるな。

 

当時、間違った教えをする偽教師たちがはびこっていました。そして、その異端的な教えをしているリーダーの中の一人にこの女性がいました。*1 また、当時は、女性は教育や学問、宗教教育もきちんと受けて来られなかった背景を受けて、パウロが一番に言った言葉が、この女は、きちんと習うことと、神・教会に従うことを学ぶべきだと言っています。*2

 

この言い方は、女性に対して、だから in silence and full submission という言葉を使っているのではなく、しばしばラビに習うときや、宗教的な学びをするときは、男性に対しても一般的に使われていた言い回しです。

 

V13 ですから、この女に教えさせてはいけない。黙らせなさい。

 

思い出してください。エペソでは、アルテミスを信じているという文化的背景から、女性は男性の起源であるという考えがありました。ブログ管理人注:「エペソでは、アルテミスを信じているという文化的背景、、」という部分についてですが、筆者の方は、この「文化的背景」について以下のように説明しておられます。

このみ言葉の背景。この手紙は、エペソにいるテモテに宛ててパウロが書いている。当時、エペソには、アルテミスという神が拝まれていた。そして、ダイアナという24の乳房を持つ女の神がおり、子宝、出産時に母子を守る神として信仰されていた。そして、女が男の起源であるとし、女は偉いという考えがあった。神殿娼婦たちがおり、魔術やシーザー礼拝も盛んであった。政治と教育の中心であった。また、オカルトで栄えていた町であり、パウロが福音を伝え、多くの改宗者がおこったので、町の経済が立ち行かなくなったことは使途の働きでも読み取れる。エペソ教会を開拓した創始者は、ブリスキラという女性であった。*3 ですから、少し考えれば、パウロが女性に対して教えるなということは、あまりにも不自然なことです。」

 

V12 の、私は、女が教えたり男を支配したりすることを許しませんauthority over a man は、ギリシャ語では、“authentein”が使われていて、.. 英語でいうオーソリティではありません。Proper translation would be ; “I do not allow a woman to teach nor to proclaim herself author of man” ですから、正しい翻訳は、「私は、この女が自分こそが男の起源であるという教えをすることを許しません。」となります。」

 

ー以上、引用おわりです。(強調、傍線はブログ管理人によります。)

 

1.の見解に対する応答

(それから記事2

 

2.の見解に対する応答

(それから記事2

 

3.の見解に対する応答


後半部分

「"I do not allow a woman to teach nor to proclaim herself author of man.” ですから、正しい翻訳は、『私は、この女が自分こそが男の起源であるという教えをすることを許しません。』となります。」に対しての応答。

 

Wayne Grudem, Evangelical Feminism and Biblical Truth, chapter 8

 

回答。

1テモテ2:12の動詞 authenteo(権威を持つ、支配する)が(「エバがアダムよりも先に創造された」と説くグノーシス異端に関連し)実際には、「"to proclaim herself author of a man(=自分こそが男の起源であると宣言する)" 」という意味であるという、リチャード&キャサリン・クローガーの主張は、古代資料からの裏付け・証明がなされていません。

 

1992年、リチャード&キャサリン・クローガーは、1テモテ2:12の動詞 authenteoが、「"to proclaim herself author of a man(=自分こそが男の起源であると宣言する)" 」という意味であり、従って、私たちは、この聖句を、「私は、女が教えたり、自分こそが男の起源であると宣言したりすることを許しません」と訳すべきだと主張しました。(R.and C. Kroeger, I Suffer Now a Woman, 103)

 

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クローガーは言います。この新訳は、「エバはアダムよりも先に創造された」と説き、当時エペソにはびこっていたグノーシス異端の存在に対応するものであると。しかし下に挙げるいくつかの要因ゆえに、彼らのこの新訳の試みは不可能なものとされます。

 

① ボールドウィン(Scot Baldwin)の引用したauthenteoの全82例の中で、「自らをなにかの起源であると宣言する」という意味を有する事例は皆無でした。訳者注:その82事例の詳細をお調べになりたい方は、ココの Appendix 7, pp.675-702 をお開きください。また、ボールドウィンの膨大な authenteo 語彙研究のコンパクトな要約文をお読みになりたい方は、[PDF] AUTHENTEIN - The Lutheran Church—Missouri Synodの論稿をご参照ください。)

 

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この著書の第2章部分に、ボールドウィン氏の authenteo 語彙研究が載っています。(詳しくは、1テモテ2:12 徹底検証:A・コステンバーガー師へのインタビュー - 巡礼者の小道(Pursuing Veritas)をご参照ください。)

 

ボールドウィンは、この動詞が「主としてなにかに責任をもっている。ないしは、なにかを始めさせる・起こさせる("to be primarily responsible for or to instigate something")」という意味を持ついくつかの例を確かに挙げていますが(Baldwin, "A Difficult Word," 73; p.274, sec.4.)、「自らをなにかの起源と宣言する」という意味を有するテクストは皆無です。その事柄に対し、「何かを宣言する」ということについては何も言われていないのです。

 

② 「主としてなにかに責任をもっている。ないしは、なにかを始めさせる・起こさせる("to be primarily responsible for or to instigate something")」という認定された意味をもつ事例についてですが、これらは全て「行ないや諸活動に対して責任を負う」という事を言及しており、「自分こそが男の起源だと宣言する」というような、「人を造り出す(creating a person)」という意味は皆無です。それゆえ、クローガーの提案する意味を立証するような実際の引用句は、どの時代のどの文献にも存在していないわけです

 

彼らが展開している議論の一例を紹介しますと、クローガーは聖バシリウスの『書簡』51:24を取り上げ、ここでの authenteo は、「自分がなにかの起源であることを宣言する」という意味を持ち得ると主張しています。

 

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聖バシリウス(Μέγας Βασίλειος

 

しかしボールドウィンは、そのような翻訳は、「驚くべき独創性」に他ならないとし、このテクストの Loeb Classical Library 訳では、この動詞を「指導する・導く("directing")」と言及していると指摘しています。(Baldwin, "A Difficult Word," 323)ボールドウィンはまた、Lampeのギリシャ辞典には、この語は「主として責任をもつ」という意味として記載されているとも言及しています。

 

ですから、クローガーは「自らを起源と宣言する」というこの新奇な発想をバリシウスの引用句の中に挿入したのです。しかしながら、そのような意味でもってこの箇所を翻訳した学者は未だかつて一人もおらず、文脈のどこを見ても、そのような意味が挿入される必要性がそこには存在しません

 

③ 現代のどの辞典も、「自分がなにかの起源であると宣言する」といったような意味が存在することなど、ほのめかしさえもしていません。皆無です。(9つの現代辞典の目録については、Baldwinの論稿のpp.66-67をご参照ください。)